うた――翠ぬ宝80

藤井貞和

秋篠の里は― しらじら遠くなる。ふりかえり見る けむりのおちに

ものぶかき― 室生の寺の草の青。眠りにつづく空の色して

(ブルガリア、ソフィアで、1、チェルノブイリ原発事故の反省が日本社会でまったくなされてこなかったこと、2、1990年代に原発震災を予告した石橋克彦氏の意見にも耳を傾けなかった日本です(国際的に許されない)、3、先週、富士山の南にある最も危険な一つである浜岡基地のスイッチを落とすと日本政府は決めたとのことです、4、真の平和が日本社会から発信されることを祈る、と冒頭で前置きしてから、発表を一つ、何とかこなしてきました。故、高木仁三郎さんにも言及すべきだったと、あとから反省。昨日は折口信夫会でコメントしながら、壊滅しつつある国へ、〈うた〉が向き合えるのか、だれにも答えられない絶句に私は襲われました。50年前には短歌型詩群と言っていた、〈うた〉がこの1〜2ヶ月、噴き出す自分のなかです。思ってもみなかった『うた――ゆくりなく夏姿するきみは去り』(書肆山田)を入稿して、旅立ちました。新詩集『春楡の木』〈思潮社〉の予告をもここでさせてください。)