ミドロ紀――91 メール1・2

藤井貞和

メールをありがとう。どこから?
届いてる! ミドロ紀へ。
あなたが、思いを行動に結びつけての旅。 車に、
シンチレーションとガイガーとを乗っけて、遠い行脚を始めるって。
そのことの意味が、とってもあるよね。 宮澤賢治みたく、
心づよいよ。 たしかに、自然放射能はあって、
千年前の8月でした。 地球で測ったら、表面よりは、
地中の熱さに、ボクらは飛び退いた。 あの日の少年紀から、
今世紀へジャンプ。

きみが 午前虹まで、惨事まで、書類に暴投してる。
高校生は福島県内で総文を舞台に。
日南は「がんばろう日本」に負けたと。
そういうナショや エゴ。どうしよう バウンドでツーアウト。
横書きの、くぼんだ序説は 無題。
しざりしざり ここに書く鏡箱の蓋のうら。
たいまを吸って、虹を惨事に、余事 誤字。

(「職員諸兄 学校がもう沙漢のなかに来てますぞ/杉の林がペルシヤなつめに変つてしまひ/はたけも薮もなくなつて/そこらはいちめん氷凍された砂けむりです/白淵先生 北緯三十九度辺まで/アラビヤ魔神が出て来ますのに/大本山からなんにもお振れがなかつたですか/さつきわれわれが教室から帰つたときは/ここらは賑やかな空気の祭/青くかがやく天の椀から/ねむや鵞鳥の花も胸毛も降つてゐました/それからあなたが進度表などお綴ぢになり/わたくしが火をたきつけてゐたそのひまに/あの妖質のみづうみが/ぎらぎらひかつてよどんだのです/ええさうなんです/もしわたくしがあなたの方の管長ならば/こんなときこそ布教使がたを/みんな巨きな駱駝に乗せて/あのほのじろくあえかな霧のイリデスセンス/蛋白石のけむりのなかに/もうどこまでもだしてやります/……」〈宮澤賢治「氷質の冗談」〉。「イリデスセンス」は「虹色、暈色。鉱物の内部又は表面で虹色を現すこと」〈藤原嘉藤治「語註」、十字屋書店『宮澤賢治全集』一〉と。『闘う市長』〈徳間書店〉によれば、南相馬市長桜井勝延氏は宮澤賢治にあこがれて、岩手大学農学部へ進学したそうです。)