ギターが消えた(その3)

スラチャイ・ジャンティマトン

荘司和子訳

「あるときはですね、水瓶を積んでラチャブリから来たトラックが水瓶ごと消えたんです。夜遅くにその水瓶を積んだトラックが検問所を通りかかったんですよ。静かに通ってれば何も起こらなかったんでしょうがね。『トゥム(水瓶の方言)だよ、トゥム。ラチャブリのトゥムだよ』と宣伝している声が警官の耳に入ってなかったらね。怪しいのは、トゥムというのが、パッタルン地方だけの方言だからなんだ。それで水瓶トラックの泥棒だとわかって逮捕されたんですよ」

このようなはなしを次々聞かされれば聞かされるほど、わたしの期待は薄れて行く。脳裏に浮かんでくるのは、友人の淡い緑のギターがどこかの家の壁に記念品になってかかっている光景ばかりになってしまった。もしも本気で探したらどこかしらの家の中で見つかるかもしれない。が、それは頭の中ではできても現実にはできないはなしだ。パッタルンの人間がかれらのはなしに出てきたような人間ばかりではないし、悪人ではない人たちも少なからずいるに違いない、とわたしはまだ信じてはいたが。。。

パッタルンとパッタルンの人たちについての知識が頭をかけめぐっていた。パッタルンの人間がいろいろと語って聞かせてくれたからだ。それもこれも2台のギターが跡形もなく消えてしまったことから起きている。かれらのはなしを聞いてしまうと、ギターがもどってくることはないだろうという気になった。でも、まだ希望は捨てていなかった。

「もしも見つけたら、咎めないし、買い戻すからと言って持ってきてくれ」
わたしは本気でそれだけ投資するつもりでいた。

グループの中でも静かにとはいえ解決への動きが始まった。ギターの持ち主は新しいギターを手に入れるため、お金を稼いだり、貯めたり、借りたりしていた。消えたギターのうち練習用に使っていた小さいほうは、日本製だった。なくなったものと観念した彼は財布をはたいて新しいのを買ってきた。3000バーツもしないものを。すごく嬉しそうに満面の笑みで、以前どおり酒でも飲める気分になっている。

それから1週間余りが経った。
ある午後のこと。電話が大きな音をたてた。わたしの携帯だ。ギターについてのいい知らせだった。

「もしもし、1台みつかりましたよ。買い戻しました。もうひとつの高いほうのは、盗んだ奴がわかって、付けて回りましたよ。それで買い戻したいと言ってあります。売らないなら警察にお前をしょっぴかせるぞと脅してあるし。必ず取り戻しますよ。パッタルン人の誇りにかけても取り戻すと保証します。そうそう、買い戻すために払うお金ですが、払わなくていいですよ。ぼくが払います。責任取ります。心配しないでください」

これを聞いてわたしは、パッタルンとパッタルンの人びとが好きになったのだった。
(完)

初出誌:『ラフーオムジャン』第1号 2006年4月