ギターが消えた(その1)

スラチャイ・ジャンティマトン

荘司和子 訳

しばしば起きるというはなしではない。ギターはわたしたちミュージシャンにとっては生活の糧となる商売道具であるから、無くなるということは痛恨の極みである。自分の命というくらいギターを愛していて、弦に錆はないし、いつもぴかぴかに磨いて完璧なきれいさにしているような弾き手ならなおのことだ。

わたしたちのボックスカーはどの窓もドアもしっかり閉まっていた。さらに先へ移動するところだったから、予定の時間に起きた。パッタルンからプーケットへ行くのだが、相当な距離があり5時間以上はかかる。それで10時に出て、午後3時に着くつもりだった。少々の遅れはかまわない。タラン市のテープガサットリー区でサッカーをやるのに、始球式に出ることになっている。区の職員と街の商店主たちの試合である。

「ギターがないっ」
楽器の管理責任者をやっている運転手ヤーが深刻な表情でわたしに言った。
「ふたつともない。忘れてないか部屋と旅人食堂を見に行ってる」
昨夜演奏した店のことである。

「ほんとうにないんだ」
という声にギターの持ち主が青ざめていくが、やむをえなかった。彼はわたしに次ぐギターのソリストである。しかもそのギターは彼が血のにじむような努力をして手に入れたもので、アメリカ製で3万バーツ以上はする。

つらいはなしで小一時間を費やし、茫然自失はするし疑問も解けなかったが、結局納得できるような答えはでなかった。それで損失はそのままに、とりあえず出発しなければならないので、解決策として彼にはわたしのギターを使ってもらうことにした。予備のギターが一台あったから。パッタルンの友人には消えた2台のギターをさがしてくれるようにと淡い期待を託しておいたのだった。