その日、東御市から旧丸子町の方向に走っていた。特に目的はなかったが、おそらく、その辺りにあるはずの農場を見たくて、上田市の郊外を諏訪方向に地方の生活道を走っていた。
もうすっかり秋の風景になった田園地帯を走っていると、ふと、道端に「ぶどう畑 まりこ農場」の小さな標識を見つけた。大きな看板が出ているとは思わなかったけれど、見落としそうな小さな標識にびっくりしながら、道を曲がって丘の細道を上って行った。
雑木の林を上っていくと、頂上に着く。ぱっと、視界が開けると、見渡す限り、あたり一面の葡萄畑が広がった。棚になっていない、垣根づくりの葡萄畑が見渡す限りの丘に広がる。青空の下、日本ではないような風景だった。そこは、シャトーメルシャンの自社管理農場 椀子(まりこ)ヴィンヤード。メルシャンのワインの中でも、高級なワインを作る葡萄を栽培している農場だった。
勝沼のぶどうの丘のまわりの葡萄畑や穂坂あたりの葡萄畑とも、松本の山辺周辺のぶどう畑とも違うその風景に、新しい「日本ワイン」の時代を感じた。ぶどう畑でその風景に一瞬時間を忘れ、再び車を動かすとやがて、風景は黄色に実った水田の日本の田園に戻っていた。