甲州は好きですか

大野晋

さて、ワインの話の続きです。

山梨県はぶどうの産地として特に東日本では有名です。葡萄は明治維新の殖産産業としてワイン製造が導入されましたが残念ながら世界的な病害虫の蔓延により、日本の産地はことごとく被害を受けてほぼ全滅してしまいます。ところが日本在来の葡萄である甲州ぶどうが栽培されていた山梨県では被害を免れます。結果として、被害を受けなかった甲州種がその後の日本の栽培種として大きな地位を築き、山梨県がその産地として確立します。

戦争中は軍事利用のために葡萄の醸造が行われますが、ワインは副産物として品質の向上がされませんでした。一方、日本では赤玉ポートワインに代表される甘く糖分添加された酒が主流であったために、本格的なワイン醸造は1970年代まで遅れます。結局、終戦後も山梨県のワインはあまり品質向上することはありませんでした。

1970年代から日本の食卓の欧米化が始まり、本格的なワインが輸入され始めると、長野県ではそれまでの甘味果実酒用のブドウ栽培から本格的な欧州のワイン品種の栽培に切り替わり始めますが、山梨県の甲州ブドウは生食にも利用されるため、山梨県でのワイン用ブドウへの切り替えは遅れます。

結果として、長野県では先行してワイン用ブドウの栽培がはじまり、産地形成されていきますが、山梨県では醸造業者が多く、観光ブドウ園などの業態も成立したため、ワイン専用品種への切り替えも、ワインの品質向上も遅れます。一部の大手メーカは醸造用ブドウを長野県に求めるようになります。現在でも、日本ワインコンクールの上位入賞ワインや国外のワインコンクールで入賞するワインがほとんど長野産のぶどうでできているのはこうした理由からです。一方、甲州ブドウは、いわゆる「試飲商法」で、おみやげ用として、観光客に販売する販路で消化されます。まあ、こうして売れるうちは良かったですが、最近の主に外国人客相手では試飲で買ってもらえることはないですから、旗色は徐々に悪くなっている状況です。

甲州は日本を代表するブドウの品種ですが、生食では巨峰やデラウェア、ワイン用ではメルローやシャルドネに負けてしまいます。結局、1000円ワインの原料となりますが、輸入ワインの関税がほぼなくなる昨今、売り物になるかどうかの瀬戸際と言わざるを得ません。数千円で売られる甲州のワインもありますが、まだまだ少数です。さて、今後、どうなるか?大きな問題でもあります。

甲州ぶどうって、好きですか?