オトメンと指を差されて(59)

大久保ゆう

わたくし自分へのおみやげというものが大変苦手なのです。人様へのものとあれば、美味しいお菓子(みやげもの)も、まずい食べ物(いやげもの)も、たいてい外れなく見極められるのですが、旅の記念品として自分に何を買うか、非常に難しくて悩んでしまいます。所有欲が少ないと言ってしまえばそれまでですが、何も見つからなかった場合は、途上であがなった本でおしまいとなります。

とはいえ、本を所望するにしても特に旅の内容とは関係ないものよりは、何かしら思い出と絡めやすいものの方が後々よいですよね。なので実際はそううまくは行かないのですが、旅のあいだに類するものがないか探すよう努めてはおります。

たとえば何でしょうか、とりあえず近場の海外、ということで出かけたグァムでも、何か現地色あふれる本がないかと気にかけていたのですが、やはりというか、どうにも見あたらなくて。立ち寄れる範囲の書店には寄ったのですが、現地のガイドさんには、グァムの人はそもそも本読む人少ないからね、本屋も少ないよ、とまことしやかに言われた通り土産本探しは難航し、ガイドブック以上のものはなく、あれよあれよという間に旅の日程は終わりに向かい、何も見つからないまま出国手続きを終わらせ、税関を越え、あとは飛行機を待つばかり……というところで、待合エリアにふと現れたる機内読書用の小さなブックストア。ここにはないだろう、と思いつつも入ってみましたら!

   Håfa adai こんにちは!
   わたしの なまえは Isa、
   チャモロごで にじって いうの。
   チャモロは グァムの ことばだよ。

ありました。ご紹介するとその出会えた一冊目の絵本は『MÅNGE’ MANHOBENに会おう』というボードブックで、おそらく英語のしゃべれる子どもに対して、グァムの現地語であるチャモロや、島の伝統や文化を簡単に教えようとするもの。Isa、Mariana、Kinの3人の少女少年を〈MÅNGE’ MANHOBEN(かわいい子どもたち)〉と呼んで、一緒に楽しく学んでいけるよう作られており、わたくしが見たときはこれ1冊きりでしたが、今は続編も出ているとか(あとから知ったのですが作者によれば、チャモロと英語の並んだ絵本はこれが史上初めてのものなのだそうです)。

そしてさらにもう1冊絵本があり、なんとこちらは自費出版の絵本『TasiとMatina』。グァム出身の親娘によるもので、天涯孤独な一匹の魚とその友だちになった少女という現地の民話・伝説に基づいた、ぬり絵タッチのものです。

  「どうかしたの、Tasi?」
  「ぼくにも、せわを やいてくれる
   きょうだいが いたらなあって」
   Matinaは Tasiにさみしいおもいをして
   ほしくなかったので、にっこりわらって、
  「わたしが あなたのおねえさんに
   なってあげる!」

正直なところ、こちらの本文はお世辞にも上手な英語とは言えないのですが、〈旅の記念品〉としては、商業的にもこなれたさきほどの本よりも、こっちの方が愛着みたいなものがございます。慣れない観光などをしていても、海に関する言い伝えや人魚の話などが何度も出てきた、ということもありますし。

しかしながら、こうして出会えてしまえば、帰国後ほかにも自費出版されていないものかと気になるわけで。グァムの出版文化については寡聞にしてよくわからないのですが、同じ出版社の本を探ってみると、『Sirena』という形の整った絵本もありまして。

   グァムのお日さまが水平線から顔をのぞかせると
   Sirenaの小さな部屋にはあたたかい光があふれる
   また今日も泳げるとわくわくして目がさめるけど
   ママに山ほど用事を言いつけられるかなとも思う

グァムの人魚伝説に基づくお話。取り寄せてみると、たいへんデッサンのしっかりした長い黒髪の人魚がイラストタッチで描かれていて、出来のよいものでした。

しかしあらためて考えてみるに、お土産屋さんに日本人観光客向けの謎のおみやげをわざわざ揃えるくらいなら、ちょこっとこういったものの翻訳本を置いてみたりとかすればですね、お子さま連れの親御さんが買ったり、ちょうどお土産に持って帰ったりするんではないのかな、とも考えたりはするんですけど。難しいんでしょうか。そういう異文化体験も悪くないような気もいたします。