反システム音楽論断片6

高橋悠治

どうしても ことばはことばを呼ぶ
何もしないうちに 理論だけが空回りする
そうならないように 目をそらして
視界に入ることばから 別な方向へ加速する
跳ね回るピンポン球のように いまは
先月の石田秀実に触発されて かってな夢見にふける

音のあらわれを待つ時間の長さ
あらわれた音を耳で聴くというより
身体を揺り動かす地震波のように
音は予期した身構えをはずし
その瞬間は はかられる線上の一点ではなく 
足元からさらわれて 思わず一歩踏み出してしまう
かまえもなく 音は音を呼ぶ
これが 即興でもあり
ある作品を演奏するなら
一つ一つの音の群れに 時間の弾みを帰していく試みになる
紙の上で音符を即興的に書き付けていくことには
別な問題がある
できるだけ速く書かなければならない
それでも 演奏する身体の速度には追いつけない
型は 一種の速記だが
閉じられた地域のなかで郷土芸術が栄えた時代はすぎた
共有する型や伝統は すでにみせかけのもの
それなら 現実の世界化を逆手に取って
引用の織物を作ること
異なる音階 作品 時代 文化の色彩の層と断絶による
短波ラジオのダイヤル
遠い声を伝える 世界の音楽化

メロディーとハーモニーの快楽にひたるのでなく
伝統の再興でもなく
それらも蔭の部分として含みながら
身体のリズムと批判のことばの両極の間に張られ
ストレッチによってやすらぎ
関係にひらかれながら 我を忘れる
音色の帆

著作権保護期間延長にさからいつつ
あくまで他者でありつづけること