製本、かい摘みましては(51)

四釜裕子

東京製本倶楽部の「紙の技、本の技」(2009.4/29-5/6 目黒区美術館)展で、2日午後にアトリエ・ド・クレの岡本幸治さんが中世西欧の製本法を実演くださった。様式は大きく分けて3つ、カロリング、ロマネスク、ゴシック製本、いずれも穴をあけた木の板を表紙とするが、綴じの支持体をどう板に通すかが違う。羊皮紙に書写したものを折りたたんでいた時代だから、最低限厚い板でしっかりおさえる必要があった。そして本は横に置いていたので「ちり」はなく、ヘリンボーンのように編み上げられた「はなぎれ」の外側には引き出すときに指でおさえやすいように大きな革がつけてある。

3種類の見本が並べられ、人だかりの中で幸治さんが手を動かしている。用意された表紙用の板は5ミリ厚くらいだったろうか。はがきとして使用できる素材もさまざまな板が市販されており、幸治さんはそれを活用しているという。材料は特別なものではないし針の運びもシンプルだ。すぐにもやってみたいと思うが、あの板の厚みの「面」にむかって斜めに小さな穴をあけるなんていうのは絶対にできそうにない。でも、やってみたい。「穴のあいた板を売ってもらえないでしょうか。」安易な私の質問に幸治さんは絶句した。ごもっとも。そんなつもりはないはずである。お恥ずかしい――でも思う、穴のあいた板があったなら。

アトリエ・アルドの市田文子さんは「歴史的製本講座」としてリンクステッチによるコプト製本や中世の製本などを行うワークショップも行っており、ウェブサイトからその内容の一部を見ることができる。インキュナブラの展示や図録に製本法の解説を読みつつ、製本の研究と試作も重ねてこられた幸治さんや市田さんのような製本家の活動を知る機会を与えられている現代は、なんてうれしくありがたいことだろう。時代に揃う材料で、求められる本のかたちのために工夫を凝らしたよりよいものが、その時代を象徴する製本法となってきたのだ。今を象徴する製本の技術といえばPUR接着剤無線綴じになるだろう。機械製本の話であったが、接着剤の改良で手製本でも丈夫にできる。美篶堂のワークショップで作った無線綴じのノートなどは時間が経ってもやわらかによく開く。無線綴じ!とむやみに嫌うことではない。製本というひとつの大きな森の中でのできごとなのだ。