製本かい摘みましては(58)

四釜裕子

あじろ綴じ並製本で仕上げた本の小口が、表紙より本文紙が1ミリほど飛び出て仕上がってきた。覚悟はしていたが1ミリもあるとちょっと目立つ。限られた予算と時間での制作であるからいたしかたなし、とはいえ印刷屋さんに改めて原因を教えてもらう。本文紙は輪転で、表紙は平台でと、印刷方法の混在がそれである。輪転で刷った本文紙はインキを乾燥させるために加熱され、そのことで紙自体が縮んでしまう。その状態でページを折り、表紙を貼り、化粧裁ち。その後、外気から湿度を得て紙は伸び、その分が表紙からはみ出してしまったというわけだ。

手元の『印刷と用紙 2000』(紙業タイムス社)を開いてみる。オフセット輪転印刷機の乾燥のためのオーブンの温度はおよそ200〜250℃、ここで紙の表面は100〜130℃になり、6%ほどあった水分は加熱後1秒で2%以下に落ちてしまう(コート紙での実験)。人間の皮膚に例えたらどれくらいのことになるのだろう。想像もつかないが、辛そうだ。この過酷な状況により生じるトラブルは大きくわけて3つ、水分の急激な蒸発で高圧となり紙の組織が破壊されること(ブリスター)、水分が減る過程でおこる「ひじわ」、そして、水分が減りすぎておこる折り割れや静電気である。解決の手だては乾燥温度をいかに抑えるか。この資料から10年経った現在は、この技術もだいぶ向上しているに違いない。

問題の本を手にとり、はみ出した1ミリ幅の本文紙を人差し指でなぞってみる。製本工場の最後の段階で化粧裁ちされたあのあとに、伸びたところが見えている。ふぅ、と吐く――それは紙の一息なのだ。