製本かい摘みましては(82)

四釜裕子

年末の手帳売り場の混雑を避けて10月始まりの手帳を使っている。実際に使い始めるのはたいてい11月。デルフォニクスのロルバーンシリーズだが、気に入っているのは、リングにペンがさしこめる、ゴムバンドで押さえてある、表紙の堅さ、ポケットがついている、ひと月の予定が見開きで土日が並んでいる、本文紙のクリーム色、角丸、ミシン目が入っている、たいていの手帳売り場にある、といったところ。夏が終わるころには丸い角がさらに丸くなり、リングが伸びて表面はかすれながらしっとりして、ゴムは伸び、満足する。

旅先で洋服屋と文房具屋と食器屋が並んでいたら文房具屋に最初に入る。土産にいい。特産品じゃなくてもいいのだ。手帳やノートも見るのが楽しい。買うのはたまに。使い切れませんからね。ただ手元には、大きさもかたちもばらばらの無地のノートがたくさんある。1日限りの製本講座のために作った見本が無地のノートとして残るのだ。製本講座といってもその実、ノート作りであることは多い。いつの日かこれに詩でも小説でも日記でも書き記すことができたなら、あの時の講座がこの「本」の最初の日だったと思い出すこともあるだろう。

セミオーダー・ノートが人気だそうだ。好きな紙を選んで「自分だけ」の「こだわり」ノートを、と。こういうのには興味が向かない。でも気になるセミオーダー・ノートがある。三省堂書店本店がオンデマンド出版サービスで使っている「エスプレッソ・ブック・マシーン」を利用した「神保町えらべる帳(ノート)」だ。希望の柄を印刷してリング綴じしますと今年4月にスタートしたが、罫線やカレンダーのようなものだけと思い込んで寄り付きもせずにいたら、五線譜や地図もあるというではないか。地区別のいろいろな白地図もできるに違いない、これは試してみなくては。

三省堂書店本店としては事情があっての発想転換に違いないが事情は知らない。ブック・マシーンには得意を存分に発揮してもらい、不得意を人手で補うとして何ができるか、「本」に固執することなく、本とノートの親密性も肯定した気持ちのいい展開だ。素材の紙や装飾パーツの種類の多さや刻印のサービスはほどほどにして、本文の柄の異常な多様化に期待している。文字ではないけど、こういうのも複製を待つ見事な本の中身と思う。