万華鏡物語(2)そこに置かれる

長谷部千彩

今日は装丁の打ち合わせ。デザイナーに会いに行く。
編集者Wさんとの待ち合わせは、三省堂本店新刊コーナー。
約束の時間まであと十分、私は棚に並べられた本をただぼんやりと眺めている。

本は好きなのに、正直なところ、本屋は苦手だ。あの、本にかけられた、宣伝文の躍る帯がどうしても好きになれない。一冊ならばさほど気にはならないものを、大量に並べられた途端、帯はこちらに向かって一斉に客引きを仕掛けてくる。どの本も、お客さん、この本、手にとってくださいよ、と、大きな声でわめき出す。実際は、静かな書店の中なのに、なぜだろう、ものすごいノイズを耳にしたように感じてしまうのだ。そして、いつもその押しの強さに私は怯み、伸ばしかけた手を引っ込めてしまう。そして、そっと書棚から離れるのである。ごめんなさいね、ネットで買うことにするわ、と。
今日も結局、眺めているだけだった。片づけの本、金融の本、社会の動き、ドラマ化、映画化、恋愛小説にミステリー・・・。どれに魅かれるわけでもなく、私はWさんをただぼんやりと待っている。今日の待ち合わせは、自分の本を作るため。ここに置かれることを願って作る本のため。

私の本にもきっと帯はかけられる。数か月先、きっと私の本も、書棚の片隅で、ひとりでも多くのひとに手に取ってもらうため、客引きに参加する。いまはまだぴんと来ないけれど、そういうものだと思っている。たぶんそれは努力。本を売るための努力。そこに置かれるための努力。自分に似つかわしくないけれど、自分の本にも似つかわしくないけれど、本を作って売るために要る努力。