アジアのごはん40 ラッキョウ漬け

森下ヒバリ

今の季節、保存食作りで台所は忙しい。淡竹、実山椒、山蕗、梅、新ショウガ、ラッキョウ。どうしてこうも同じ頃にどっと出てくるのか。おかげで、最近は6月にはけっして旅行せず、日本にいるようになってしまった。

昨年の12月、アパートの玄関前のスペースに植えていたビワの木になんと6年目にして初めて花が咲き、青い実がついた。6月に入ってしばらくすると、実に色がほんのりついてきた。数の多い小さい実を摘果したり、茂りすぎた葉っぱを取ったり、カラスにすべて食べられないよう、手の届くところに袋をかけたりする。
ビワの実の具合を眺めているうちに奈良から梅が届く。鈴なりになっているビワの実でビワ酒を漬けようと思い、今年は梅酒はやめておいて、6キロ全部梅干に仕込む。

梅漬けはカンタンで楽しい。届いた梅を台所に置いておくと梅が熟れてきて、なんともいえないよい匂いが部屋を満たす。仕込みをはじめて、洗ったり、塩をまぶしたりしている間にも、その匂いに包まれて、なんともシアワセな気分である。花もいい匂いだが、この熟れた実の匂いは格別。これは梅漬けをする人だけが味わえる快楽といってもいい。ああ、梅の木がほしいなあ・・。

ビワは小粒だが、だんだん熟れてきて、けっこうおいしくなった。小粒なものを集めて焼酎につけてビワ酒に仕込む。雨の合間を縫って熟れた実を取り、友達に届ける。とてもうちだけでは食べきれない。今年は豊作らしく、方々で黄色く熟れた実がついたビワの木をみかけた。心配していたカラスも、色づいた初日にいらしただけ。ときどきヒヨドリの夫婦が食べに来るぐらい。

梅雨の合間に、あんまり暑くて日差しも強いので、去年漬けた梅漬けを干すことにした。いつも土用のころは忙しくて、さらに8月はいつも日本にいないので、梅漬けを干すタイミングがむずかしい。でも、日差しさえ強ければいつ干してもいいのだと気がついてからは、すっかり気が楽になった。1年でも2年でも塩漬けのままで置いておいてかまわないのである。むしろ、塩がなれておいしいぐらいだ。

土用干しの呪縛から自由になると、なんと梅干作りの気楽なことよ。しかも、3日3晩続けて干す必要もない。1日干して、次の日天気が好くなかったら、また梅酢に戻しておけばいい。雨が降るかもとやきもきしたり、外出を取りやめることもないのである。ばらばらでも、連続でもだいたい、3日間以上干すと、梅漬けは晴れて梅干に変身する。

先日仕込んだ今年の梅漬けの梅酢もあがってきた。塩は2割よりやや控えめなので、上から泡盛をカップ1杯注ぐ。これはカビ予防。梅の実が梅酢に漬かっていて、重石もしてあったら、干さないままでもたいがいカビは生えない。

もしカビが生えたら・・表面のカビの部分を取り除き、梅は焼酎などで洗って一度日に干す。梅酢はさっと熱して冷まし、また梅を沈める。重石を少し重くする。塩を追加する、などなど。けっして捨ててはいけません。
先週は思い切ってラッキョウ漬けに取りかかった。正直言ってラッキョウ漬けだけは苦手だ。あの、じっと立ってラッキョウを一粒ずつむいて、根っこを切って整えるのが、なんともつらい。貧血を起こしそうだ。流しで洗ったりしながらする作業なので、座ってするわけにもいかないしな〜。

でも、食べるのがきらいなわけではない。市販のものは甘すぎるので、やっぱり自分で作らなくっちゃ。ことしは少なめに500グラムにしたら、鼻歌を歌っているうちに仕込めた。この調子なら、またラッキョウを見かけたら追加製作してもいいかもしれない。

ヒバリのラッキョウ漬けもまた手抜き・・いや、ややこしくない大胆仕込である。一般的には皮をむいてそうじしたら、一度根っこをつけたまま塩漬けすることになっている。その後、ふたたび甘酢に漬けるらしいのだが、そのとき塩を抜いたりもするらしい。なぜだ? 初めから甘酢漬けにしちゃいけないの?ラッキョウをはじめて漬けようと思ったときに、作り方を調べて、この二段階が面倒臭いなあとあきらめかけた。しかし、「いきなり漬け」という漬け方を教えてもらい、「これならできそう」と思ってやってみたら、十分おいしいではないか。

いや、むしろ市販の甘っちょろい甘酢漬けよりずっといい。もっとも、家に遊びに来てこのラッキョウ漬けを食べ「このラッキョウ、野性的だね・・」と1個しか食べなかったヤツが一人だけいるが、そいつとはその後、別のことで信頼関係をなくした。いや、けっしてウチのラッキョウに文句をつけたからじゃありませんってば。

ラッキョウはかじったときの歯ごたえが重要だ。口の中でしゃりっと砕けるあの爽快感。歯ごたえのいいラッキョウ漬けは、仕込みのときの切り方で決まる。では、漬け込みの手間一回だけのヒバリ式ラッキョウしょうゆ漬けの方法でえ〜す。

3年ラッキョウはおいしいけど、小さくて手間が3倍なので、素直に大粒の1年物のラッキョウを仕入れる。
水洗いして泥をざっと落とし、長すぎる茎を切る。そこから薄皮をむく。根っこの部分を切る。ぎりぎりに根っこが微妙に残っているぐらい。まちがっても、市販のラッキョウ漬けのような大胆な切り方をしてはいけない。茎も市販のものよりやや長い感じでね。もう一度洗って、砂がついてないか確かめ、ざるにあけて水を切って乾かす。塩をちょっとふって、まぶしておくと身がしまって味がなじみやすい。

口の広いガラス瓶などに、水気を切ったラッキョウを入れ、しょうゆ1、酢1、さとうかはちみつ0.5ぐらいの感じで上からかける。さとうやはちみつをわざわざ別なべで熱して溶かして混ぜ合わせておく必要はありません。そのうち溶けます。いや、溶かしておいてもいいですけど。鷹の爪を1〜2本ほど入れる。乾燥したものね。

甘みはお好みで。これより少なくしておいて、しばらくして味を見て加減してもいい。塩味も足りなければ、しょうゆを足してしばらく置く。ラッキョウがひたひたになっていれば大丈夫。甘みは、砂糖やはちみつのかわりにみりんをいれてもいい。

1〜2か月で食べられます。1年間はカリカリです。

もっとかんたん、味噌漬けラッキョウ。家にある味噌を手ごろな容器に取り、洗って皮をむいたラッキョウのなるべく小粒なものを選んでそこに入れるだけ。ラッキョウが味噌にまぶされていればいいんです。3日で食べられます。酒の肴に絶品です。

沖縄の島ラッキョウを生で味噌をそえて食べる、あんな味。でも少し漬けてあるから絶妙なまろやかさもある。ほんの少し、あるだけで満足。1週間ぐらいで食べきりたい。お酒は、もちろん、泡盛か焼酎オンザロック!

ラッキョウは夏バテによく効きます。疲れた夜にはまず前菜でラッキョウ漬けを少し食べて元気を取り戻そう。暑さに負けて、電力会社の策略の「電気がないと困るでしょ〜」作戦に取り込まれないよう。今年も暑くなりそう(というかすでに真夏並み)だけど、原発なくても大丈夫、なとこを見せつけてやろうではありませんか。