犬狼詩集

管啓次郎

  3

狩猟圧が高まっている雲の都会で
魂が狩られようとしている
その最大の防御は塩の人形を作ること
純白の、つまり光を散乱させる
無色透明の結晶の集積により
魂と経験のでこぼこを見かけ上ならした
平均律的な顔立ちの人形たちに踊らせること
あるいは雲の都会の運河を音もなくすべる
彼岸へとゆきつかない渡し舟に
季節はずれの茄子の牛を四、五頭並べて
走れよと声をかけてみるのもいいだろう
かれらは逃げない、私は追う
かれらはうずくまる、私は追う
牛たちが道草を食う対岸の土手に妖精の輪が生じて
目蓋のように閉じたり開いたり
魂はそれにつられて花のように眠る

  4

巨大な黒い犬とオレンジ色の犬にリヤカーを曵かせて
とぼとぼと世界を巡回する老人をよく見かけた
ユカリプテュスの並木に沿って歩きながら
いつもかたつむり以上に押し黙っていた
村人たちは彼のボロ着を笑い
町の人々は彼と犬たちの存在を無視した
何をして生きていたのか、あの老人は
ぼくは五歳、いつも馬蹄形の磁石をもち
砂鉄や古釘を吸いつけて遊んでいた
だれとも遊ばず、だれとも口をきかなかった
二頭の犬および老人とはよくすれちがったが
それ以上によく知り合うことはなかった
時々おじいさんが犬たちに
知らない言葉で話しかけていることがあった
犬たちはどちらも口をあけ主人を見上げ
何かうれしそうに尾を振っていた