治安が悪化する

さとうまき

ここのところイラク情勢がきな臭い。いきなりモスルがイスラム過激派ISISに占拠され陥落したというニュースが入ってくる。

一週間で避難民が50万人というからすごい数だ。シリア難民が250万人。イラクの内戦で一月からの国内避難民は100万人に上るというのは、すごい数字だ。

それでも北イラクの治安は安定している。クルド自治区と呼ばれるように、自治政府がビザも中央イラクとは異なり独自に飛行場で発給している。軍隊もペシュメルガと呼ばれており中央政府とは独立している。そのためか今までは治安が良かった。それで、先日はモスルから、知り合いの医者が一家で避難してきたので、事務所で面倒を見ることになった。彼らはキリスト教徒だから真っ先にISISに狙い撃ちされそうである。何とか日本に避難させようと仲間うちで動き出している。

ところが、大家が怒っているというのだ。「アラブ人を泊めるのはよろしくない。お前ら日本人も出ていけ」といわん勢いである。

実は、この地区で、僕がいた4月に発砲事件があった。秘書と夜中の1時ごろまで打ち合わせをしていたら、いきなり、銃声が5、6発聞こえたかと思うと車が去っていく音。

「やばい」僕の頭の中では、1980年代のベイルート。民兵たちがピックアップにのってカラシュニコフを連射しているシーン。「ふせろ!窓から離れろ!」とあたふたする僕。ところが、秘書は、「どうせ爆竹でしょ。」と極めて冷静だ。

この場に及んで、銃声か爆竹かで、口論を続ける場合ではない。しかし確かに、そういわれると僕には銃声の音か爆竹の音か聞き分けるすべを持たないし、彼女を説得することなど到底できることではない。そういう時は怒鳴るしかない。ともかく、僕は電気を消して机の陰に隠れた。「馬鹿野郎。早く、こっちへ来い」匍匐前進で隣の部屋までたどり着いた。しばらくするとパトカーが何台かきた。3軒くらい隣の家の前にとまり、懐中電灯でずーっと何かを探している。爆弾が仕掛けられたのだろうか? 一時間くらい探して、ようやくパトカーが去って行った。

翌朝、現場に行ってみると、車に銃が撃ち込まれていた。助手席に4発。まるでゴルゴ13が狙ったように正確だ。警察の話だと、「大したことじゃない。痴情の縺れだ」という。婚約するはずだった娘がキャンセルしたために付き合っていた男の一族が威嚇射撃をしただけのことらしい。

政治的な背景はないといっていたが、何かあるとすぐ銃を持ち出す文化が残ってる。そういうのは簡単に内戦へとエスカレートするのだ。僕らの事務所にもアラブ人が泊まっているのはけしからんと銃を撃ってくるかもしれない。

先日、中央政府の領土かクルド自治区に編入するかでもめているキリクークをペシュメルガが制圧したという。ISISからクルド人を守るという名目だ。ISISが支配地域を拡大しているのと同じで、クルド自治政府も支配地域を拡大している。

今度はイスラエルのネタニヤフ首相が、テルアビブで講演し、イラク北部のクルド自治政府について「私たちはクルド人の独立への願いを支援しなければいけない」と述べ、独立国家樹立を後押しする意向を表明したそうだ。こうなると話はややこしくなって、ISIS vs イラク軍vs ペシュメルガ、シリア軍、イスラエル軍が敵の敵は味方になってさらにアメリカ軍も戻ってきたからもうめちゃくちゃになっている。

とりあえず、僕は7月6日に日本を発ちヨルダン経由で北イラク入りすることになった。

7月1日、集団自衛権行使容認が閣議決定されるという。そうなったら集団的自衛権の行使は、混沌としたイラクに対してなのかもしれない。一体日本はどうなってしまうのか

出国の前日ですが7月5日にシンポジューム「イラク戦争と私達」を開催します。