踏んだり蹴ったりのイラク航空

さとうまき

なかなかバグダッドに入れない。

本当は、2月に行くはずだったが、4月20日に地方議会選挙があるので、治安の悪化が心配された。選挙当日は、厳重な警戒態勢が敷かれ平和裏に投票が行われたようだが、それでも10名ほどの死者が出ている。日本の選挙で10人も死んだらそれこそ大騒ぎだから、いかにこの国がめちゃくちゃかということ。

とりあえず、選挙が終わった翌日に、イラク航空のチケットがとれて、アルビルからバグダッドまで移動した。
この10年ですっかり様変わりしたアルビルとは異なり、バグダッドはひどい飛行場だ。ただ、デザイン的には昭和レトロ。飛行機についているツバメのロゴは、気に入っている。化石のような、80年代の昭和チックなスチュワーデスも味がある。しかし、いろいろ欠陥もある。まず、バグダッドに着くと、スーツケースのタイヤが一個折れてしまっている。よっぽど乱暴に扱ったのだろう。文句を言ったところで、「ならぬことは、ならぬものです」の一点張りだろうからさっさとあきらめた。夜も遅くなるといやなので。

数日後、今度は、バグダッドからバスラに飛んだ。選挙の影響か、宗派対立が激化してしまい、一週間で200人近くが殺されたという。バグダッドに飛火しないように、南のバスラにとりあえず避難することにした。そして今度は、バスラからアルビルに戻る飛行機の予約確認にいったら、大変なことになっている。

バグダッドで、行きと帰りのカーボンつづりのバウチャーを間違って切ってしまったらしい。帰りのバウチャーがないから、飛行機に乗れないというのだ。新しいチケットを買えと。
「なんでやねん。アンタらのミスなんだから、ちゃんと責任をとってください」とマネージャーのこれも化石のようなおばさんに食って掛かると「私の責任ではない! バグダッドの責任だ! わたしの責任だなってとんでもないわ!」といって逆切れされてしまった。

「あんたね、そりゃ、あなたの責任じゃないかもしれないが、私は、アンタらの責任だといっているのです。イラク航空の会社の責任でしょうが」
「イラク航空ったって、大きいのよ。バグダッドにもバスラにもドバイにもアルビルにも支店があって大きいのよ。だからバスラは関係ないわ!」
「何が大きいんだ! もっと大きなエミレーツだって、こんなミスがあったら、会社が責任もって対処するでしょう。だってあんたら損しないんだもの。自分がミスして、それで、俺が2倍の金額払わされてなんなんだこれは? 情けないと思わないのか!」
しかし、イラクでは常識は通じない。「ならぬものはならぬのです」の一点張りだ。
「警察に訴えるぞ!」と思わず言ってしまった。
すると、マネージャーは、バグダッドの支店に電話して、「日本人が、イラクの警察呼ぶって言っているわ。イラク警察よ!」と笑いながら話している。確かに、イラクの警察はあてにならないよなと僕も苦笑い。

結局、明日来いということになった。翌朝バグダッドのスタッフに、イラク航空のバグダッド支店に行ってもらった。「バグダッド支店は、それは飛行場にいてバウチャーを切った男の責任だから、飛行場に行って話をしてください。バグダッド事務所の責任ではありません」といわれたという。今のバグダッドは、テロの警戒もありそう簡単に飛行場には行けないのだ。こんな詐欺みたいなことやっていて恥ずかしくないのか?と思いながら、昨日の化石のようなマネージャーのところに行くと、すんなりと、明日の飛行機に乗れるように手配したという。実は、昨日、バスラのスタッフが手を回し、警察から化石のようなマネージャのところに電話を入れてもらったそうだ。
「あなたは、イラク警察があてにならないように言ってないですよね? 警察を笑いものにしてないですよね」
それはともかく、やがてエミレーツを追い越すような飛行機会社になってほしいものだ。