開花の週 呟き

璃葉

今年の桜の開花は、去年よりも少しだけ早い気がする。
いわゆる花冷え・花曇りの下、レジャーシートを敷いて宴会をする人たちは寒そうに身を寄せ合っている。こんなに冷え込むと、ビールもあまり美味しくないのでは、と心配してしまう。

桜満開の週に合わせたかのように、度重なる外出の疲れがどっとやってきた。去年はドンと咲きほこる桜を部屋から眺めながらお酒を飲んだ記憶があるが、今回は全くその気になれない。ロールカーテンをほとんど下げて、薄暗い部屋のなか、横になる。外で開かれている宴会の賑やかな声を聞きながらうたた寝をして、久しぶりにのんびり楽しく、暗く過ごす。

夕刻、花見客が引き上げて静かになったころを見計らって窓を開けると、意外にも空は晴れていて、しっとりした空気が漂っていた。乾ききっていない洗濯物を取り込み、熱い紅茶を水筒にいれ、コートを羽織って玄関扉を開ける。

川沿いを歩いていくと、私のようにひとりで散歩をしているひとがちらほらいた。ゆったりとした足取りで、たまに立ち止まりながら、川向こうまで連なる桜や日暮れの空を眺めている。白く光る星はシリウスだろうか。

広場のベンチに座って水筒の蓋をあける。少し歩いただけで指先が冷たい。のぼるダージリンの湯気で、視界が霞む。みるみる深くなる青の空。星は花に隠れ、花は雪のようにまぶしい。
どっしりと構えた、妙にしんとした桜のそばで、熱い紅茶をすすった。ときおり草花の濃いにおいが体を通り抜けていくのを感じながら、とにかく何もせずにぼんやり過ごした。