ちいさなサイン ――翠ぬ宝79

藤井貞和

一方井さんの詩に、「あの子、
静かに眠っている」、と

静かに眠っている子の、

言葉よ、「慎ましく生きる人々の姿を、
私は決してわすれない」とも

ほしかったものはありますか?
         (一方井さんが訊く。)

「映し出されるのは形のない
あの子」(眠っている……)

      
(一方井亜稀さんのコメントに、「3・11を機に詩が紡がれるとするならば、それは傷を負った人々のリズムによってのみであろう。本作は震災以前に書いたものだが、これがどのように読み手に届くのかは分からない。ただ、書かれた(そしてこれから書かれる)全てのものはこの震災に耐えうる力を持たなくてはならないだろう。更に言うならば、遠いいつか、震災が忘れ去られてなお詩として機能するものでなくてはならない。言うまでもないが、このことは3・11以前にも公然と書き手に突き付けられていたはずである」とある。『現代詩手帖』5月号より。なお、一方井の訓み方がわからない。)