翆槽にて100 真珠貝の湾

藤井貞和

若くしてわれ、東西を知らず、
芸能を見る目、またくなかりき。
「詩とドキュメンタリィ」、思潮社の一冊、
不意に手にして乾武俊を知る。

「黒い翁」、歳月をへだてて、
ふたたびわれのまえに、天の雫か、
地湧(じゆう)の声か、深層の人、
思いを伝えて、今日に到る。

何びとぞ、山本ひろ子、「くどきの系譜」を、
コピーに作りて、われに呉れたり。
山本ひろ子、真珠貝の湾に、
3月2日より乾武俊のフォーラムをひらくと。

木村屋の座に集う若きら、若からぬらに、
伝えん意志の仮面よ舞え、新作。
「カイナゾ申しに参りたり」、黒い媼の
花開きうらうら、和歌の浦々。

(乾武俊、91歳。「詩とドキュメンタリィ」に出会ったのは1960年代。90年代に「黒い翁」を見る。2013年春3月、和歌の浦にフォーラムをひらくと。)