ねんてんさんと、うふふふふ

更紗

  三月の甘納豆のうふふふふ

この句をご存知の方は、どれくらいいるのでしょう。私がこの句に出会ったのは、たぶん、中学2年生の1学期。国語の教科書に、俳人・坪内稔典さんの文章と俳句が載っていました。稔典さんの代表作である甘納豆の句は、1月から12月まであり「甘納豆 十二句」といいます。俳句と短歌の区別がついていたかどうかもあやしい頃です、’古典’だと思い込んでいた俳句で、しかも教科書から「うふふふふ」って……!! 

3月以外の句も、何の難しさもありません(もちろん、難しく解釈しようとすれば色々あるのでしょうけれど)。ポップかつキャッチーで、記憶にある「その月のある日」にぴたりとくる。ちなみに、私が最も好きなのは12月。

  十二月どうするどうする甘納豆

数日後、スーパーで母に甘納豆をねだったのはいうまでもありません(笑)。

授業が次の単元に進んでも、私の稔典熱は冷めることをつゆほども知らず、ついには市立図書館で『現代俳句文庫―1 坪内稔典句集』を見つけ、迷わず手に取ったのです。前出の「甘納豆 十二句」はもちろん全て載っています。

その句集で、私はあれから10年以上たった今まで、一字一句忘れることのできない句(覚えていようなんて思わなくても、忘れられない)に遭遇しました。
いいですか、いきますよ?
49ページ、「この十年の春嵐 二十句」より……

  陰毛も春もヤマキの花かつお

刹那、思い浮かんだ映像は、くるくると地面で渦巻く桜吹雪と、手のひらの中でふるえる花かつお、そして、お風呂の中でゆらゆらする、体中で一番不思議な毛・陰毛――! 
くるくる、ふわふわ、たった17字が巻き起こす春風が、全身をさらっていく。

たった10年前じゃないのと、笑うなかれ! 当時住んでいたアパートの住所だって忘れてしまったけれど、稔典さんの「陰毛も春もヤマキの花かつお」は忘れられない。舞台でセリフがとんだって、この句は出てきたに違いない。世間が陰毛をワカメに例えようと、私は一生「いいや、ヤマキの花かつお」と、心の中でとなえるでしょう。ちなみに、この映像に合わせて私の脳内で流れたBGMは、ショパンの「子犬のワルツ」でした。

考えるな、感じろ! とはよく言ったもの。心も体もノーガードの自然体で、17字の世界にとびこむ……この楽しさを問答無用に教えてくれたのが、稔典さんの俳句でした。それ以降、稔典さん(の著書)に導かれ、漱石や子規の俳句にも、どぼーんと飛び込みました。自然体で、ぽろっと口からこぼれて生まれたような俳句の世界。その自然体の17字を生み出すための、さまざまなバックステージを読み解くのも興味深いだろうとは思うのですが、私はもっぱら「どぼーん!」派です。

それでは最後に、今月にぴったりの句を紹介します。河馬のシリーズも、とってもいいですよ。

  桜散るあなたも河馬になりなさい

皆様、よいお花見を。