民族的なギター

笹久保伸

現在最も世界的にポピュラー「ギター」というのは いわゆるスペイン型のギターと言える
6弦からE‐A‐D‐G‐B‐E
この調弦は世界の音楽を征服している とは言わないまでも ヨーロッパ〜アジア〜アフリカ〜アメリカ〜南米〜中近東 どこの国でもこの調弦が用いられる

ギターが現在の形になったのは19世紀 ギター史の本を読むと スペインの製作家A, Torresが活躍した時代以降という事になっているから 意外と昔の話ではない それ以前はもう少し小型サイズのギターだった 俗にいう19世紀ギター さらにそれ以前はバロックギターやヴィウエラ、それらは複弦で 音色や弾き方、調弦も 今のギターとは異なる

19世紀にスペインで生まれたこのギターはどうしてこう世界中に広まり ここまであらゆる音楽の世界に普及したのか ロック、ジャズ、フォーク、カントリー、各国の民族音楽、演歌もサイケデリックもヘビメタもこのスペインの調弦で弾いているのを見ると 何というか、ちょっと何とも言えない

なぜ皆このスペインの調弦で演奏されるのか なぜここまで広まったのか 単に便利だからか?

しかし各分野のギター音楽を細かく見ていくと 少なからず「スペインの調弦」とは異なる調弦が用いられ その調弦で弾くとその音楽の持つ独特な世界観がよりよく表現されている事に気がつく

自分が弾いているペルー音楽もある意味スペイン調弦に征服されているが それと並行するかのように 独特な調弦が根強く存在している ペルーは300年間スペインの植民地であり、それまでの文化は破壊され、すべての風習はスペイン化された そんな中でも彼らは彼らの音楽を演奏してきた その調弦で演奏したとき 明らかにスペインの響きとは異なるニュアンスを感じる事ができる たとえばBaulinという調弦はペルーの南アンデス地域特有の調弦で インディヘナ音楽の響きがする とされている いや もしかしたらそれも聴き手の思い込みなのか 不思議な事

それは特別ペルーに限った事ではないと思う たとえばアフリカにも同じことがいえる 最近関心を持ち少し聴いているマダガスカル音楽や セネガル音楽、その他各地域の音楽にも共通な事が言える それらの地域にもスペイン型ギター&調弦は普遍的に普及している まるでキリスト教が世界中に広まったかのように しかし並行し独自の調弦も用いられている 特にソロで演奏する時に多く用いられるように思える それで弾くと これがまた独特な 民族的な響きに聴こえてくるから不思議 そういう視点から考えるとペルー音楽にも共通点が見つかる というかむしろ世界各地の民族音楽は共通している

「スペイン型」と言っても それすらも他国、他民族の影響を受けているわけだし ギターという楽器は どこの国の楽器 とは断定できないと思う ただ Antonio de Torresは現在の形のギターを作った とは言える 「スペイン型ギター」が現在クラシックギターと呼ばれているが(フラメンコは別として) なぜロマン派期に完成されたこの楽器が「クラシックギター」なのか いまいちよくわからない それにギター族(属)は どうみても 民族楽器であった

日本人はクラシックギター(西洋音楽)を弾く 西洋人のように弾こうと努力もし 学校でもそう教える それは客観的に見ると どういう事なのでしょう?

例えばセネガル人やコンゴ人のクラシックギタリストを見たことがない いるのだろうか? 少なくとも、 あまりいないと思う それは 客観的に見ると どういう事なのでしょう?

音楽は文化の一面だから そこから色々な事が見えてくる それが面白い