色々な旅

笹久保伸

先日ギリシャ、ブルガリアで演奏する事になり、初めてのヨーロッパへ行った。私は乗り物酔いをするので、以前から旅はあまり好きではなかった(旅は好きだが、乗り物が嫌い)が、それもペルーでたくさん旅をしなくてはいけなかったため、だいぶ鍛えられた。過去の旅の経験があったので、今回はわりと余裕があった。

ペルーの場合、首都のリマから山岳地域に行くにはアンデス山脈を越えていかないとたどり着けない。飛行機で行けば1時間で行けるところも、車で20時間かかる。とくに田舎では道が整備されてなく、車もボロボロ。旅をしていると探検家、冒険家のような気分になる。アンデス越えは標高の高い地点を通るが、標高4500メートルを超えると、かなり体がきつくなり、手がしびれ、頭がくらくらする。バスにはトイレが無いため、乗客の誰かがトイレに行きたくなるとバスが止まる。(たまに運転手の悪ふざけで止まってくれない)

標高5000メートル地点などでバスが停車したら、歩いて外に出る事すらつらい。私が旅した時、首都は夏だったので、半袖Tシャツ一枚でバスに乗ったが、標高5000メートルに着くと雪が降っていて(ワンカベリカ県)、バスを降りる前から高山病で手足がしびれていた私は、ふらふらで外に出て、本当に死ぬかと思った。この旅は私の人生最悪の旅だが、とても重要な経験だった事が後でわかった。

一方首都のリマから北、南へは海岸線で標高は低い。ペルー最北部はトゥンベス、ピウラと言う県で、1200キロくらいある、最南端タクナまでも同じ距離。これは楽だと思いバスに乗り挑戦したが、あまり楽ではなかった。20時間の旅だが、景色はずっと砂漠でまったく変化がない。しかもかなり暑い。途中では麻薬の検問があり、犬と警官がバスを止めて色々調べる。バスの中では眠れない、眠ると100パーセントの確率で荷物を盗まれる。

自分はまだ置き引きにはあったことがないが、強盗に襲われたことは何回もある。リマのスラム街に泥棒市があり、ここにいる90パーセントの人間が泥棒といわれ、車の部品から鉛筆、骨董品、楽器、レコードからピストルまで何でも手に入る。そこに売ってないものは、注文すると、彼らがどこかから入手して(盗んで)くる。物を盗まれた人は、盗まれるたびにそこへ行く、そしてたまに自分が盗まれたものが数日後そこで販売されていて、自分で買う。うそみたいな話だが、本当である。

その頃私は78回転のSP版レコードのペルー音楽を収集していて、そこへ買物に行った。昼間道を歩いていると、4人組が現れ、一人に首を絞められ(ヘッドロック)あとの3人に所持品を奪われた(ガムだけ返してくれた)。後日再び買物に行ったときは、スラムに住む子供の集団(強盗)に襲われた。現地ではそれをピラニアとよび、20人くらいで一斉にかかってきて、抵抗は不可能である。私は走って逃げきったが、誰も助けてくれなかった。

その後自宅の前でも強盗にあったときは、隣の床屋のおじさんが助けてくれた。

日本に帰国する日も、自宅を出発する時2人の強盗が現れ、ピストルを突きつけられた。たぶん近所に住む泥棒が、私が旅に出る事に気がつき、その知り合いの泥棒を呼んだと思われる。もしくは、家の前にいる見張り人が強盗に旅に出るという情報を流した(そういう事は日常茶飯事である)。

楽器を取られないよう心配をしながら、でも死んだらもともこもないな、と考えた。強盗もかなり緊張していて、それが逆に恐かったが、結局彼らはタクシー運転手の財布と荷物、携帯、免許証を盗み退散した。その後警察に行ったが「強盗? まあよくあるから、次は気をつけてね」と言われ、犯人を追わないのかと聞くと「追うわけないだろ、だって捕まらないし、カヤオに逃げられたら警察は入れないし」と聞き流された(カヤオ地域のスラムは警察すら入らない)。

話を旅に戻しますが、一方ギリシャ、ブルガリアの旅は、移動中の景色はきれい、電車、バス、道路、食、すべて順調であった。ブルガリアで突然雹が降り、ホテルのガラスが割れたり、洪水になったり、ギリシャからブルガリアへ移動したとき(電車と車で移動)到着時間を勘違いし、ギリシャのドラマ県に夜中の3時についてしまい、駅のベンチで寝るはめになったり(11時amまで)はしたが、冬、アンデスの村のバス停で寝た事もあるし、食事が乾燥トウモロコシだけだった事もよくあるので、それにくらべたらたいした問題ではなかった。

先進国、発展途上国では色々な面で雲泥の差がある、しかしどちらが雲でどちらが泥か、そのとらえ方は人それぞれ。