ケンタック(その2)

スラチャイ・ジャンティマトン

荘司和子 訳

「ケンタック」
これといって強める口調でもなく先ほどと同じ答えが帰ってきた。再びこのように答えるのを聞くと、これ以上訊いたら何か咎められそうな気がして、黙るしかない。黙るといってもまだ頭の中は訊きたいことがやまほど飛び交っているのだが。

わたしが沈黙したことで二人のあいだの空気がふつうに戻った。関係が良好なあいだにわたしたちはことばを交わす。

わたしがここまでやって来たのは、なぜか名前を聞き出せなかったある中年の男のことばからだった。彼は指さしながらはなした。どこか田舎訛りのはなし方なのだが、それがどこの訛りなのかどうしてもわからないのだった。

そこは家が何戸もないような新しい集落でにぎわいがない。お寺も学校も電信柱さえもが見あたらない。人里離れた山林の村落で、何もない広いところにある。村人がすでに使わなくなった畑のようにも見える。広い丘陵があるがたいして高くも険しくもない。谷にはすっかり乾いた渓流がある。さまざまな昆虫がいる。木々はあちこちにまばらだ。もしもたまたま通りがかって休憩のつもりで景色を眺めるとしたら、そんなに悪くはない。かといって大変美しいとか、住みたくなるとか、何かそんなようなレベルだとはいえない。

一体どこなのか、何郡なのか、何県なのか、わたしは知りたいとは思わない。わたしの対話相手との間だけで内密にしておけばいい。村の名前、場所、ですら奇妙だし、それがどういう過去をもってきたのか知らなくてもかまわない。そう、わたしはまた夢の世界に足を踏み入れたようなのだ。わたしは見たままあるがままでよくて、それ以上に詳しく知りたいという願望はない。その後に続く不可思議な物語、それが興味深いのは別として。(つづく)