既視感

大野晋

引越しの次の日、メーターの取り外しの立ち会いのために家に戻った。

荷物を全て運び出したがらんとした家の中で、ふと、どこかで見たことのあるような気がした。その感覚の源がどこにあるのかを考えながら、業者の来るのを待つ。そう、確かに同じ風景を見たことがある。

今から40年以上前。この家が立って一年も経たずに父が亡くなった。当時はまだ、周りに家も少なく、収入源もなくなったことで、幼い私はまだ新しい私の家を出ていかなくてはならなかった。まだ見ぬ将来への不安。もう二度と帰って来られないかもしれないという思いで、引っ越し荷物を運び出したがらんとした家の中で、今と同じ思いの私がいた。そう。あのときと一緒だ。

業者を待ちながら最後の家の写真を撮ったが、一枚も家の中の写真を写すことはできなかった。そして、次の日。家はなくなった。