EB――思い出のかけら

高橋悠治

アール・ブラウンを思い出す?
あの長い腕が曲線のかたちをえがき 空中に消える
モービル
目に見えるような音楽 でもたちまち
指がさししめす
ほかのかたちと組み合わされ 変化する
ページごとに5組の断片は
演じるため
そこが同時代のヨーロッパ人の理論好みとちがう

はじめて会ったのはクセナキスのパリのアパート
二人がフランス語と英語のpassionということばの
ちがいを論じていたのをきいた

アテネで自作を指揮するのを見たのは
クーデターの2週間前
夜の空気はもう過敏になっていた
時にふさわしい組み合わせを指さすと
すぐにめずらしい響きの破片が
大きな身振りで混ぜ合わされ 点滅する

暗いバーで若い作曲家たちに質問していた
ベルリンの動物園駅に近く
あれは1970年だったか?
ロンドンのスタジオでは
タイムレコードのために録音し写真も撮った

最後に会ったのはブルックリンで
マース・カニンガムの公演に入場する列のなか
スーザン・ソンタグもいて
突然現れ二言三言 また群衆のなかに消えた
うつろう記憶
都市から都市へ
うごくこともまたアート