製本、かい摘まみましては(25)

四釜裕子

よしもとばななの『ベリーショーツ』は、奥付によると1月1日が発行日だが、昨年11月には店頭に並んだ。発行日のおよそ2カ月前には発売していたその理由を、発行元の「ほぼ日刊イトイ新聞」で明かしている。仕掛けたのは、この本を装丁した祖父江慎さん。これまで10桁だったISBNが今年から13桁となり、書体については、11級以上にすればこれまで標準化していたOCR-Bフォントに限らず自由となった。祖父江さんがその新しい表記でやりたいと申し出て、実現したようだ。日本図書コード管理センターの「ISBN規格改定に対する日本の対応策について」によると、13桁の読み取り体制が整って流通上の支障などもないとマネジメント委員会が判断すれば、新しいISBNの表示時期を早めることがある、とあったから、同種の「未来発行」本は他にもあったのかもしれない。

さて『ベリーショーツ』は、しおりがやたら長い。通常しおりは、判型の対角線よりちょっと長めだ。ハガキサイズのこの本の場合は対角線が18センチだから、しおりは20センチ弱が相場のところ、45センチもある。祖父江さんは帯にも細工し、それを切ってしおりに貼って遊ぶのもいいよ、と示すが、正直、長いしおりは邪魔で、せいぜいぐるぐる巻いてみます。買ったとき、このしおりはどう収納されていたのだったか。しおりについた折りじわを見る限りでは、3つに折りたたんではさんであったのかもしれないが、思い出せない。佐内正史の『シャンプーリンス』(2002)のしおりは1メートルくらいあっただろうか。あれもなにか、長いだけではないしかけがあったのだったかどうか。

長いしおりは、通常の機械製本のラインでは貼れないから、おそらく一冊ずつ手で貼ったのだろう。機械製本の工程では、本の中身の断裁を終えたところでしおりをつける。ベルトコンベアーにのせられた本は、背を下にした状態で流れてきて、真中あたりのページが開かれ、しおり紐をはさんでその端が背に接着される。大切なのは、その後の表紙貼りなどの工程で邪魔にならないように、しおりがしっかり本文のなかに収められることだ。ここは速度がややゆっくりで、しかも人の腕の動きを見るようで楽しい。――人さし指をUの字に曲げて、長いしおり紐をひっかける/腕をひき、開いた本の中に紐を落とす/腕全体をコの字を逆に描くように動かして、紐をくるりと丸くページに収める ――。はさみが下からせりあがって紐を切ると、その端が、はらりと垂れる。本が流れて突き進み、紐の端が背にぴたりと沿う。前もって背に塗られていた接着剤で固定され、しおりが完成する。

上製本の工程の中で、そのエレガントな動きにみとれる場面のひとつだ。見学したときその機械には、「スピン挿入機 富士油圧精機」と書いてあった。機能をわかりやすく示すなら、「スピン貼り機」のほうがいい。だが、あの一本の紐をしなやかに本のなかに流し入れる動きを見れば、まさしくあれは挿入機であって、なるほどと思った。この機械が最初に作られたのは、昭和43年だそうである。以来そのしくみは、さほど大きく変わっていないのではないか。