書き/書きなおす

高橋悠治

二つの版
その一.まず シアターχでの公演のために書いたスケッチ

詩の廃墟 音楽の散乱 

音にならない音 声にならない声 ことばにならないことば から
からだをゆりうごかすひびき からだにひびくうごき になり
音をきくからだ 音をきくうごき
うごきにゆれるからだ ひびきにうごくからだ から
音をことばとして ことばを音としてきく それとも
ひびきを ねいろ 音を色としてながめる おもいうかべること
また ひびきを ひびくままに まかせること
流れのまにまに 細かく 織り込み
流してみること 長くのばされた ことばの余韻に
住みつくこだまを ふりはらう こと
寄りつくさざなみの 消えかかる 消し炭の
燠火を ゆらすこと 残り火の 色変わりし
ひびわれ おぼつかなく ふるえ 振れる こと
降れ 雨ことば そっと 触れて遠のく
遠い野の手触り おもいがけなく たよりなく
これでいいのか と 思うひまなく
おもいのまま にならない 微かな
うごきを みつめること
うごめき めくらませ 暗闇の隈取り
取り憑き とまどい はぐらかされ はぐれ
たどり たどたどしく 遠回しに
まわりこみ まよいながら
さまよううちに 間合いはかって
割り込み 繰り込み 刈り込みながら ようやく
やってくる やっときたのか きこえてくるのは
さざめく 声のいろどり ざわめく
色とりどりのことば さまざまに ゆがんで
ゆらいで かたむいて 欠けて うすれる
そのかけら 手に添って こぼれる
ひびきの粒 あざやかに ひびきの滴
日々の糧 舌がかりして あやしく わびしく
したたり やはり舌たらず 重みで下へ 舌の奥へ
引き込まれて 言いたりなかった ことば
ことばにならない音 音にならない声 を残して
からっぽの 殻だけの 実の 蓑のなかに
脈打ち うねる 脈の 見誤りもなく
まだやまない 疚しさ またも
あやうい 賭の 賽の目に 見切られ
蛇の目傘 魅入られて
海女の捨て舟 潮干に止まる
陽に曝されて 積もる塩の渇き
照り返し わずかな輝き 翳り
焦げ付く影 くすぶる焚火 霧雨に煙る
声のかたち 音のたわむれ ことばあそび
ことごとに壊れ 恋われ 乞われて
別れない かりそめの 絆に
答えない問の 解らないわけに 
立ちすくみ 道半ば わけもなく
分けられない 塊の

その二.おなじテクストをとなえ うたう場合

廃墟/散乱

こえでない こえ
      ゆれる  ひびき
   うごき     うごめき
         いろます  ながれに
             すむ    こだま
           の
       ことばを

   ふりはらい   ふりかかり
     ふるえ
ふれ あめ
        ふれて こわれる ながめの

       きえかかる
  けしずみ こぼれる
かけら
  ちりかかる
      はい
        はがれ うすれる
て  の  かげ
  おもみ したたる
      したの  うずきの

        みゃくうつ かわき
つもる しお
     おき ゆく ひきふね  の
   かげり
         ひくしお
        せまる   ゆうやみ
  はぐれた      とり
     とまる はかげに

えだを たどり
            ひだ の おく
     かくれる つき
         かけた
   ひ  の   な  が  く
  おとろえる  ねむり  の
              さめた ゆめ
   のこる ひびきは
      ひび われて