反システム音楽論断片7

空気の微妙な震え その変化が音となり
音を音楽という秩序におしこもうとする企ては いずれは破綻する
それが音楽史となった
究極の音楽と言えるものは だれも作れない
耳は響きに浸っていても 身体はやがてちがう音楽を要求する
身体を揺り動かす音の力は 音量ではない
かすかなリズムの揺れが身体の共振を触発し
その共振が自発的に内部で乱反射し 拡大して
身体全体を一つのリズムで揺さぶる
音はそのきっかけとなるもの
そのわずかな力がはたらきかけるのは
文化を 歴史を前提とした社会的な身体

音楽は すでにある音楽からできていなければ
身体に受け入れられることはない
そして そこに いままでなかった音が含まれていなければ
身体をうごかすことはできない
人間は いつも未知のものに惹かれるから
文化や歴史を創ってきた
そしてそれらは完結することはない
文化も歴史も したがって音楽も不満の表現だ
決して満たされることはない

振動の拡大は崩壊にいたる
吊り橋を渡るアリの群れの歩みが ついには橋を落とすように
めだたない一つの変化が 内側から全体に作用する
全体に共振する一点を発見するために ハンマーで叩いて
組織の弱い個所をさぐるように
実験が必要とされる

アフリカから輸入された奴隷たちが 数世紀かかって 
主人たちの音楽の時間枠をずらし
シンコペーションによって 対話する複数の声
抵抗する複数の時間を創りだしたこと
また
さまざまな色とかたちが組み合わされて
単一のイメージに収斂しないアラベスクのひろがり
としての音の世界を創ること

これらの実験によって
音楽は別な世界の夢でありうる


(この連載はここで中断する 書きはじめた時の予想とはちがって 以前に書いた断片はそのままでは使えなかった 音楽は変わり 考えることも変化する さらに実験をかさね 観察と発見がなければ これ以上は書くことがない)