「NUNO WORKS」の生地を使った手製本ワークショップの案内をいただいた。教えてくれるのは手工製本家の山崎曜さんで、ハンドステッチで製本、文庫本を製本、封筒を製本の3種類が用意されている。いずれも、3時間程度で完成とのこと。「ハンドステッチで製本」ってどんなんだろうと、案内をもらった夜にすぐ申込んだがすでに満席。でもまもなく追加開催の案内をいただいて、でかける。
会場となった「NUNO WORKS」の店は、骨董通りから六本木通り方面にちょっとはいったところにある。このあたりを初めてうろうろしたのは、雑貨屋「ディーズ」を探したときだった。と、このあたりをうろうろするたびに、いつも思う。雑貨に古着に骨董に古本。東京って楽しいと、はじめて自分で思えたころだ。きっとだから特別な場所のひとつなのだろう。
店内の壁面には明るくおおらかな柄の生地が並んでいて、手前には山崎さんの作品、まんなかのテーブルにはワークショップの材料が揃っている。あらかじめ必要な寸法に切ってアイロンで裏打ちを貼った布がたくさんあって、各自まず2種類の布を選ぶ。素材は綿麻、化繊といろいろあるが、予想しうるこれからの作業を思って、化繊を避ける。それに合わせて、ステッチ用の糸や留め具、革を選ぶ。
道具も様々用意されていて、山崎さんが腰にぶらさげた愛用品を含めて、それにまつわる逸話も楽しい。たとえば目打ち。いく種類かあったけれど、てのひらにおさまるものがとても使いやすくて、これは墨壷についているカルコというものだという。また竹製のへらは、子どもたちが工作で使うものらしいが、山崎さんがいい具合に削ってくれているので、味があって好ましい。圧巻は、割ピン。ごく普通のものだがやけに色がきれいだ、と思ったら、なんと山崎さんが、染めて用意してくれていたのだ。
作業は、イラスト付きの説明書もあるのでわかりやすい。A6サイズの既製の中綴じノートに、事前に選んだ布地で作った表紙を三つ目綴じで付けて手帳を作る。二枚の布で芯となる地券紙をはさみ、その周囲をステッチしてかがるのがポイントで、昔なつかしのフェルト手芸のような手順でさくさく。てこずったのは綴じ穴にさしたハトメをカナヅチで打って菊状に開くこと。苦手なんだなあと思っていたら3つのうち2つを失敗。あらあらと、山崎さんに直していただく。
白地に丸柄が浮かぶ表紙に濃い緑のステッチがアクセントになり、さらに内側の黄色い布がちらりとのぞいて映え、なかなかきれいに仕上がった。綴じひもごと中身を変えれば、ずっと使える。スクリューポンチで開けた穴にハトメを打ってあるので、糸を通すのも簡単だ。表紙が柔らかいから、間にペンをはさんでもなりゆきでなじむ。全体をくるりと紐で巻いて留めることもできるので、切り抜きやハガキをはさんでもいい。日常使いに便利だ。
と、手帳の柄を記しながら、ある人を思い出した。子どもの頃の話を、聞いていたときだ。引き揚げのときに選んだ荷物は歳の離れた生まれたばかりの妹さんのためのおしめ用の布で、青い小さな花が描かれたそれはそれは鮮やかに白い綿だったとか、父親の背広を仕立て直した制服は濃紺でぱりっとしていたとか、随所に、布の素材や色柄の描写が出てくるのだ。いつも布といっしょだったのですね、と言うと、あら、そう?と、怪訝そうだった。なにしろその日も、その人の周りは布や毛糸であふれていた。