かぞえはじめた(翠の虱30)

わたしは天上の、菅(すげ)をかぞえはじめた、

かぞえることができるようになった。 ひともと菅、ふたもと、......

わたしのかぞえのゆびは根もとに分けいる。

なかに這いいる。 かずをいくつもかぞえられるはずなのに、

天上のゆうひが射して邪魔をする。 穂先をいじめる、

わたしのゆびが、ゆうひのように伸びる。

尽きることのない、銀山の傍らにわたしは住んでいた。 銀色の、

坑道に沿って、もっともっと小指は伸びることでしょう。

根もとと穂先とが、ゆうべの露で銀色だったこと。

穂先をいじめると、銀色がなまりのように染みだして、

あなたを煙の掘削法で黒ずみのなかに放置すること。

そうだな、耀(かがや)いたあとで光度をうしなう彗星が、

しっ尾を巻きつかせて、静かになること。 天文学者になろう。

何でもが起きる、そう思う。 かぞえないことによって、

どこまで近づけるかと問う。 哲学者はかぞえないし、

数学者はかぞえる。 天上の菅(すげ)は、銀山につづく、

菅原を出てどこへ行くのだろうか。 うごきの菅よ、

あなたは出られないね、天上から。


(奄美で島尾ミホさんに会って、帰ってきた。帰りしなに、敏雄を思い出しましたと言って、涙ぐまれた。それから2週間もせず、自宅で倒れているミホさんがしまおまほさんによって発見された。冥福を祈ります。うえに掲げる「かぞえはじめた」は、奄美から帰ってすぐに書いたので、ミホさんの逝去と無関係。)