製本、かい摘みましては(35)

スイス・アスコナにある製本・修復の学校、centro del bel libro asconaで学んだ都筑晶絵さんによるレクチャー「スイスの製本学校の教育」を、白金のTS_gに聞きに行く。この学校には製本科と修復科があり、製本科は、表紙のデザイン、糊なし製本、アルバム作り、両開きの本、メニュー(中身を差し替えられるような作り)、函、タイトル押し、紙の歴史、支柱に木や革を用いたりパーチメントで綴じる12~15世紀の製本法などなど、いずれも1週間単位で授業が行われ、その中から選んで受講できるようだ。1週間だけ滞在する人もいるが、都筑さんはここに10ヶ月通って11月に帰国したばかり。6年前の夏にパリの製本学校でルリユールも学んでいたとのことで、実際に作った本やスライドを見ながら話を聞く。

写真で見ると学校というより工房、小さくていろいろな道具があっていい感じ。世界各地から、年齢も職種も様々な生徒やゲスト講師もやってくる。プログラムの作り方、テーマの決め方もそれぞれおもしろい。新しい素材、たとえば壁紙を使いこなす方法に限ったり、なにもかも手作りすることなくコンパクトな機械をうまく活用したり、とくになんでもない製本法だがネーミングが楽しかったり。なかで、折り紙の技法を活かした製本を教えている先生(日本人ではない)がいたそうで、そのクラスで都筑さんが作った本をまじまじと見ていた。どんな風に折ってあるのか、見当がつかない。写真やはがきを貼り込めるように、蛇腹に折った紙を背にして本のかたちを作ることがある。藤井敬子さんなどは独自にアレンジして「ジャバラ de ルリユール」と名付け、これまでたくさんのワークショップをやっておられるが、それとも違う。

蛇腹に折ったその同じ紙で、いわゆる本の天と地に「つめ」のようなかたちも作っているようだ。「つめ」は三角。なるほど、折りの手順が見えてきた。全てのページにこの「つめ」があるから、ここにたとえば2つ折りした紙を、糊を使わずにはさみ込むことができる。もちろん、1枚ずつはり込んで使ってもいい。家に帰って早速作ってみる。折り自体は簡単だが、そうそうきれいには仕上がらない。手製本についてのわたしの印象は、洋綴じ系は幾工程毎度辻褄合わせで、わが力量顧みずそれが毎度でうんざり、いっぽう和綴じ系は一発勝負で、わが力量追いつかずムリムリと言ってはなからやりたがらない傾向がある。この「折り」という作業もいわば和綴じ系で、一工程ずつの丁寧が肝要なのでわたしにはむずかしい。都筑さんはこの折りをアレンジして、名刺入れを作っていた。約1メートルの細長ーい紙を、どうしたらあんなにきっちり折れるのだろう。

レクチャーのあと、ワークショップがあった。紙1枚を折って作るCDケースで、Benjamin Elbelさんというひとが考案した方法を都筑さんがアレンジしたもの。あらかじめ紙が型紙通りに断裁されており、言われる通りに折るだけなので面白みはなかったけれど、1枚の紙からこんなふうにかたちが作られてゆくのだということ、その延長に、折ったり糸でかがるだけでも様々な製本が楽しめること、そういう関心への道筋はしっかり照らされたように思う。会場は、2007年春まで長岡造形大学で教えてらした小泉均さんが、より実践的にスイス・タイポグラフィを深めるために設けた場所で、ふだんは活版の学校である。2008年春からは都筑さんが、ここで「製本基礎(仮)」のクラスを始めるようだ。紙を扱うコツや簡単に手でできる製本の方法を教えてゆきたいとウェブサイトにある。小泉さんと都筑さんがどんなプログラムを組むのか、とても楽しみ。