メキシコ便り(5)

12月にはいると長い冬休み。これを利用してコスタリカに行ってきました。広さは日本の九州と四国を足したくらいの小さな国で、メキシコからは直通の飛行機で3時間で行けます。首都サンホセは高いビルもなくこじんまりとした街で、ここは朝が早いせいか、夜10時を過ぎると明かりも消えてひっそりとしてしまいます。私がメキシコシティーにいるためでしょうか、静かというよりもさびしいという印象をうけました。

コスタリカは憲法に軍隊をもたないことを明記し、1983年には永世非武装中立宣言をしました。1987年には現在の大統領でもあるオスカル・アリアス・サンチェス大統領が中米の平和に貢献したということでノーベル平和賞を受賞しました。またこの国はコーヒー、バナナ、ハイテク製品などの輸出とともにエコツーリズムが外貨獲得の大きなウエートを占めています。コスタリカには全生物種の5パーセントが生息しているといわれ、国土の27パーセントが保護区や国立公園になっています。自然を生かした観光産業をエコツーリズムという形で推し進め、入場料などから得た収入を自然保護のために活用しています。ここのガイドは英語はもちろん生物学もしっかり学ばなければならないのですが、このガイド協会がガイド料の中から拠出した資金はレンジャーの人件費や、植林などの自然保護プログラムにあてられます。ここでは自然保護と観光産業が相互補完の関係になっているのです。

私はまずケツァールが見られるというモンテベルデ自然保護区に行きました。ここには常に雲と霧に覆われている湿度の高い熱帯雲霧林と呼ばれる密林があります。しかし、私の行った日はとても天気がよく、さわやかな風が猛スピードで雲を流し、湿度の高さは全く感じられない快適さでした。風がゆらす木々がまるで歌を歌っているようにそよぐなかに鳥たちのさえずりがとけこみ、今まで経験したことのない、自然が奏でる音楽に包み込まれた至福の時をすごすことができました。ガイド見習いで明日から一本立ちするというエステバンが熱心に先輩ガイドのエルビンと一緒に望遠鏡でケツァールを探してくれ、なかなか見ることができないといわれているケツァールに3回も会えました。頭が緑で胸が赤、尾が白と青の本当にきれいな色の鳥でした。

次の日、ガイドの必需品の三脚付きの大きな望遠鏡を持ったエルビンが、胸にこの森に住む生きものたちの図鑑を入れ、入り口でお客を待っているのに出会いました。ちょっと緊張しているようでしたが、誇らしげに私を見て微笑みました。私はコン・アニモ(がんばって)と声をかけ、こぶしをにぎり激励しました。

次に訪ねたのが、カリブ海に面し、海がめが産卵にやってくるというトルトゥゲーロ国立公園です。時期的に海がめの産卵は見られませんでしたが、モンテベルデとはまったく異なる密林を見ることができました。ここは高温多湿の豪雨地帯で、毎日のように激しいスコールがあります。ジャングルの中は道がないので、人々の移動はランチャとよばれる小さな船です。観光客もこの船に乗り、ラグーナといわれる大きな河を分け入りながら進みます。ジャングルのなかでは木々の間を猿がとびかい、ワニもたくさん顔を水面に出しながら泳いでいます。河岸の木には、騒ぎ立てる観光客をちょっと小ばかにしたような表情のイグアナがじとーと止まっています。そして、海がめがやってくるという海岸は大きな波が打ち寄せ、白い砂浜が延々と続いていました。

夜、ホテルの船着場でニカラグアから15年前、18歳でここに来て、夜から朝までホテルの船の番をしているというホセ・サントスに会いました。ここトルトゥゲーロの住人は4000人ほどだということですが、ニカラグア人は900人いて、ほとんどホテルのボーイやガードマン、洗濯婦などをしているということでした。コスタリカには隣国ニカラグアの政情不安や貧困を逃れやってきた人が多く、現在430万人(2004年)のコスタリカ人口の約1割弱、不法滞在も含めて40万人以上が暮らしているといわれています。首都サンホセでは多くは建築現場などで働き、観光地ではホテルなどで働いています。ホセの兄弟はみんなニカラグアにいるそうで、兄弟の話をするホセはとても楽しそうでした。彼が私に「耳をすましてごらん」というので耳をかたむけると、かすかに海鳴りが聞こえてきました。彼は毎日、故郷でも聴いただろうカリブの海鳴りを聴きながら、祖国の兄弟を思い出しつつ、一人で一晩中、船の番をしているのかとおもうと、私はちょっとせつない気分になってしまいました。

私はこのコスタリカへの一人旅で一杯スペイン語を聞き、話そうと意気込んできました。でも勉強したのはなんと英語でした。というのもコスタリカへの観光客はアメリカ人が67パーセント、アジア人が3パーセント、そのうち日本人はわずか1パーセント、残りがヨーロッパ人なのです。ガイドは達者に英語を話しますから、多勢に無勢、説明は大半が英語で、スペイン語は申し訳程度に少しだけ。両方を交互にやるガイドもセンテンスが短かかったり、長かったりで英語とスペイン語が混ざって聞こえてくるため返ってわかりにくく、私の目論見はさんざんな結果に終わりました。私の行った場所はどこにいても聞こえてくるのは英語ばかり、「いったいここはどこやねん!」と、つい、つっこみをいれたくなるような旅でした。トホホ。