新正月は静かに過ぎた。元日は実家に行き仏壇に線香、お年賀をお供えし手を合わせる。二日は子供を連れ親戚のお年賀まわりをし終わった。元日と二日は急に寒くなりこの冬初めて、暖房を入れる。うちのまわりでは親戚まわりも新正月で済ませるところばかりになった。子供の頃はまだ旧暦でやるところも多かったので父に連れられて親戚まわりをした。旧暦でお正月を祝うのは漁師町くらいかもしれない。かといって旧正月は何もやらないわけではなく、内々に重箱にご馳走を作り、仏壇には手を合わせる。
そうこうしていると十五日(旧十二月八日)、餅(ムーチー)になる。スーパーや市場ではサンニン(月桃の葉)が並ぶ。既に作られたものも売っている。サンニンで包まれた餅はカーサムーチー(カーサは葉の意)と呼ばれ、仏壇にお供えし、厄払い、健康祈願をする。子供が生まれた家は初餅(ハチムーチー)を親戚に配る。実家の母親がお供えした餅をもらい、鴨居から吊るす。子供の年の分だけ吊るすのだが、食べきれないので今年は十個くらい。それでも一日では食べきれない。食べ尽くすまでの数日はサンニンの匂いが部屋に充満する。子供は給食でも餅が出たとうんざりしていたが、わたしは餅があまり好きではないので無理矢理食わせる。カーサムーチーは餅粉を練って、葉に包み、蒸して作られる。残った葉は十字に結びサン(魔除け)を作り、家の入り口に吊るすのだが我が家はやっていない。母親は何か料理を作って持ってくる際、持たせる際にはかならず手近にあるビニール紐で小さなサンを結び入れている。この場合のサンは食べ物を運ぶときに守るためのものだ。
一月が終わると旧暦での年中行事があらたに始まる。今年は一月三十一日(旧十二月二十四日)は御願解ち(ウガンブドゥチ)にあたっている。火の神様(ヒヌカン)に一年の報告をして上天してもらう。神様は旧一月四日にまたお迎えする。行事ごとに御願言葉(ウガンクゥトゥバ)が方言である。わたしは、方言に関しては普段は聞くことがなんとかできるくらいでうまく話せない。方言を使えない人が多くなるなか、御願言葉を集めた本も出ている。祭祀を行う際は禁忌もあり、年寄りの記憶も定かでなくなるなか、こういう行事も簡略化され、やらなくなる家も出てくるだろう。祭祀の中心は女性である。兄もわたしも連添っているのは沖縄の生まれではないのでもちろん言葉はわからない。そのときはいちばん新しく墓にはいっている父親に沖縄口(ウチナーグチ)でご先祖様(ウヤファーフジ)に通訳してもらうしかないだろう。