ある日のお昼時、自分で作ったお弁当を食べていると、女の子にこんなことを言われました。
「大久保さんって、オトメンですよね。」
私が何ですかそれと訊くと、「乙女系男子」との答え。さらになぜと訊くと、「すごく怖い顔でものすごい量の仕事するのに、普段は穏やかっていうかむしろ天然だし、意外と女の子みたいにファッションに気をつけてるし、いつも自炊だし、可愛いモノとか甘いモノ好きだし、時々お菓子作ってくるし。」という解説。
近ごろ世間では、見た目や仕事はずいぶん男っぽいのに、趣味嗜好が女の子っぽい男の子を「オトメン」と言うらしい――ということがわかって、私はとても納得したのです。
確かに私のストレス解消はバーゲンに行くことだし日々甘いものを食べないと生きてゆけません! 女性の先輩に「あなたとだったら『かわいいもの』談義で何時間でもしゃべれると思う」と言われたほどの男の子です! そうか、私はオトメンだったんですね!
言葉を与えられて、心のもやもやが晴れたような気分です。何というか、そういえば、ずっと女の子のことをうらやましく思っていました(そういう男の子もいるのです)。特に何がいちばんうらやましいかと言うと、「ファッション」です。
だって女の子の服ってヴァリエーションが豊富じゃないですか。どんな自分でもなれるってくらいにいっぱい種類があります。街を歩いていても色んな服の子がいますよね。それにお店もたくさんあるし、大きな建物があったら、中の8割くらいは女の子のお店。
それに引き替え男の服と言ったら......じーっと観察してても、シャツ+ジーンズ、ネルシャツ+ツータック、シャツ+ジーンズ......みんな同じのばっかり! たいていワンフロアか半フロアしかない売り場に行っても(あるいはファッションを扱う街に出かけても)、カジュアル系、ストリート系、フォーマル系、終わり。
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待てぇぇぇぇぇい! おいおいおい選択肢少なすぎやしませんか。私にどんな服着ろっていうんですか! それじゃあ何ですか、おしゃれに気を遣う若い男の子はみんなストリートかアメカジにしろってことですか! そんな、私はそういうやんちゃな服よりも、もっとかわ......いえ、イメージに合ったスマートで個性的な服が着たいんですぅぅぅぅ!
――そんな経緯で、うら若き少年の私はパンクファッションへの道を走ることになりました。我ながら極端ですね。今ではとても着られません。当時の女の子っぽい感性の男の子が進む常道です(たぶん違う)。
そしてその後、紆余曲折を経て、ただいま二十代後半の私は、パンクっぽい要素を持ちつつ大人っぽい落ち着きを兼ね備えたファッションを目指すに至ります。カジュアルパンクという言葉が相応しいでしょうか。そして「その服はお前しか着こなせない」とか言われるまでになりました。ありがとうございます。
しかし十年も経った今では、男の子向けのファッションも昔の非常に雑漠とした区分をやめて、独自の言葉で系統立てられているみたいです。きれいめ系、お兄系、サロン系、ヒップホップ系などなど、ちょうど今ファッションに興味を持ち始めていたら、そっちの方に流れていたかも。今の子がちょっとうらやましいです。
とはいえ、こうしてファッションに気を遣う男の子が増えたようにも思えますが、まだまだ男の子向けのお店は少ないですし、ヴァリエーションも少なく、自分に合う服を扱ってるお店を探すのは一苦労です。オトメンにはまだまだつらい世の中です。
(でもそんななか、めぼしいものを見つけたときには! もう「買う買う買う買わないと俺帰れない」と意味不明な言葉が頭の中に繰り返し流れ、次の瞬間には何か紙袋っぽいものを持っています。あれ? おかしいな?)
とまあ、そんな私でありますが、服からさらに進んでもうひとつうらやましい「ファッション」があります。それは「ブランド物」。男の子のブランド物なんて、夢のまた夢だなんて思っていたのですが、最近、その夢を叶える救世主が各地に続々と現れつつあるのです! ......というのは、次のお話で。