南青山のブックストア&カフェ「Rainy Day」で、「あなたの好きな文庫本を革装します」という案内をみる。見本は二種類。ひとつは、切りっぱなしの革でくるんで見返しも加えず背のところだけはり合わせたもの。もうひとつは、角背上製本そのものだが、折り返しや溝にあたる部分の革が薄く漉いてある以外は下ごしらえや装飾に手をかけず、これまたワイルドかつシンプルに仕上げたもの。このカフェで革のワークショップを担当している原田さんの手によるもので、いわゆる"革製本"は習ったことがないと聞く。鞄や靴、ほかの革製品同様に、使い込むことでやってくる心地よさへの期待が宿る。
革で本を装丁してみたいと私が最初に思ったのは、そんな期待ではなかったか。その後"ルリユール"を習うも半ばでくじけ、一番の原因は革漉きだった。そもそもパッセ・カルトンの工程は数多くて多岐にわたり、ひとりで全てをやろうとすればたいていどこかで苦手が出る。私の場合はそれが革漉きで、表紙用の革の緻密な採寸や手術用のメスまで駆使する日々にうんざりしてしまった。のらりくらりやりすごすも、紙より布、布より革が製本作業に親しい素材であることだけはわかって、美しく仕上げるこつを習うのは楽しかった。だがアリガタイことに技量及ばず、結果、身が心を助けてくれた、と今は思っている。
おかげで、"とらわれの革装本ドグマ"とは別のサイクルにある革の本にこうして会えた。所有や保存、ましてや"作品"としてのものではないし、これを見本として習うものでもないだろう。こういう位置に寝そべる"製本"に、私は添いたい。