「その人、××のときに○○するでしょ。」
と私が言うと、依頼人は、
「えっ、どうしてわかるんですか!?」
なんていうのはシャーロック・ホームズの世界にしかありえないと思いきや実は私にとってはよくある光景だったりするところの大久保ゆうですみなさまこんにちは。
いやしかしそもそもそんな会話の成立する状況がよくわからんというお言葉もあるかと思いますが冗談というかほとんどあきらめ半分に自分のことを「諮問探偵《コンサルティング・ディテクティヴ》」と呼びたくなるくらい男女問わず私の所には揉め事が持ち込まれます。
ほらテレビとかで探偵の行くところ行くところ事件が起こったり出くわしたりするじゃないですか、普通はああいうのは「そんなことありえないよ」と思うところなのですが大小様々な事件に(部外者としてあるいは探偵として)巻き込まれる私にとっては世の架空の探偵の皆々様は同情の対象なのですどうもご愁傷様だぜ。
事件の遭遇率がこんなに高いのはなぜかと考えてみるにそれはオトメンであることと深い関係があるのではないかと思っているのですですです! この十年さんざん巻き込まれまくって今さらですけどけど! さらに原因がわかったからといって避けられるわけでもないんですけどねねねね! もうそのへんは自他共に認めるところだからいいんですぅーだ!(キャラ崩壊)
さて。
まずはオトメンは女の子とも仲がいいということ。もちろん同性とも仲がいいのでちょうど「つなぐ」役割になりやすいというか緩衝地帯みたいなものになりやすいです。そうなるとまあ男女関係のもつれなどが起こった場合かなりの確率で頼りにされるのだと思います――ほとんどの場合、バカな男が原因だったりするんですけどね! まったく! 前回の欲求不満が......もごもご――これは推測しやすいしわかりやすい理由ですオトメン1。
ふたつにはオトメンは割と組織や集まりの要所にいることが多いということ。何というか最初の定義を思い出しながら考えてほしいのですがオトメンは実務能力的にも頼りにされることが多いです。とはいえ立ち位置的にはリーダーではなく人と時と場合によっては副長だったり一匹狼だったり遊撃隊長だったり狙撃手だったり軍師だったりするわけですが物事のピンチの際というのはえてしてそういう立場の方が小回りがきくしそういう人だからこそ話が持ち込まれる次第なのですがオトメン2。
という点に加えて個人的な要素として事態をさらに悪化させているのは私は「推理ができる」人であるからなのですね......ええと何言ってるんだとかお思いでしょう別に寝ぼけているわけでも自慢しているわけでも自惚れているわけでもありませんいやただ職業的に「推理」とほぼ同義のことができるというだけなのですというかもったいぶらなくてもただ「翻訳」ができるだけなんですけどねオトメン3この語尾もうやめてもいいかな。
テクストが相手だと翻訳(あるいはそれに際する読解)になるのですがそれが生身の人間相手になると「推理」っぽくなるわけです。他の言葉で言い換えると「精神分析」だったり「プロファイリング」だったり「演繹推理」だったりあるいは思考のトレースだったり出来事のシミュレートだったり細かいことは別にしてデータさえあれば職業的にわかる部分があるのです。
などと言うと格好良く見えたりうらやましがられたりするのかもしれませんが、
......ええと
............言っておきますが
..................推理が当たるのは尋常じゃなく怖いですよ?
いや別にくだらないことで当たるのはいいんです。「あなた、トイレのトイレットペーパーの端を折る人でしょう?」とか「目薬挿すとき目をつむる人でしょう?」とか「消しゴムの削りカスをついつい集めちゃう人でしょう?」とか。別にそんなの言いませんが。
じゅうぶんなデータさえあればある一定の状況下においてある人がどんな行動をするかそれくらいは翻訳家としてわかるのですが......そうして導き出された某人の行動と結果がとんでもないことだったら......とんでもなく恐ろしいことだったら......背筋を凍らせるほかないわけなんです。ぞくぞくぞくっ(凍る音)、ぶるぶるぶる(震える音)、ぶんぶんぶん(信じたくなくて首を振る音)。
私だってまずそれが妄想なのではないかといったん冷静になりますよ。でも当たるから怖いんです、事件を片づけたあとで裏を取ったら合ってたりするから困るんです、推理して嬉しいとか楽しいとかそういうのは本の世界だけの話ですよ! 安全だから楽しめるというのはジェットコースターとかと同じなのかもしれませんが巻き込まれている身としては「心臓が止まるわ!」と言いたくなります。(ところでジェットコースターは面白いですよねいつも大爆笑しながら乗ってます安全安全うん私の日常に比べればめくるめくファンタジーエンターテインメントイリュージョンですよあはははは。)
で、とんでもないことが起こるのをわかってて放置しておけないからいくら関わり合いになりたくなくてもそういうときには飛び込まざるを得ません。そうして事件が解決して日常に戻って依頼人もいなくなってしまったあとのあの虚無感虚脱感と言ったら、もう耐えられ、な、い!(悪い意味で)
しかしまあシャーロック・ホームズ氏はそういう事件を楽しんでいるわけですが自分の気持ちを裏返したときホームズが事件のない毎日を「つまらん」と言うのはわからないわけでもないのですというかそういう自分の日常があるからホームズの翻訳にリアリティが保てたりするわけなのですが(そしてそれを素直に喜べず苦笑いする自分がいる)。
そういえばよくよく考えれば翻訳家というのもかなりオトメンらしい職業ですよねと思いつつこのへんで紙幅が尽きてきたので続きは次回。