メキシコのお酒といえばテキーラ、いろいろな飲み方がある中で、カクテルのテキーラ・サンライズはあまりにも有名です。私もテキーラが大好きでよく友人と飲むのですが、私の飲み方は彼がやっているやり方で、小さな細長いグラスにテキーラを入れ、そのグラスを持った手の親指の付け根あたりに塩をのせます。そしてもう片方の手でリモンといわれる、こちらのレモンで小さなすだちのようなものをかじりつつ、塩をなめながら飲むのです。テキーラの高いアルコール度による強い刺激をこの辛さとすっぱさがほどよく緩和してくれ、まろっとしたさわやかさに変えてくれるのです。
人によってはレフレスコとよばれる、コーラや炭酸飲料、ジュースを混ぜたり、水割りにしたりと本当に人それぞれで楽しんでいます。店で飲むとサングリアと呼ばれるトマトジュースがついて出てきたりもします。値段はピンきりで高いものは数万ペソ(数十万円)もするそうですが、だいたい平均すると500ペソ(5000円)くらいから安いものだと50ペソ(500円)くらいでしょうか。私はもちろん安いものしか飲めませんが・・・・。
このテキーラの産地、グアダラハラに行ってきました。グアダラハラはメキシコ第2の都市でハリスコ州の州都です。メキシコシティーからバスで北に約7時間。夜中にメキシコシティーを発ち、着いたのが朝7時ごろ、街はもう動きだしていました。宿に荷物を置きコーヒーをゆっくり飲み、さあ行動開始です。
私がここでどうしても見たかったのがハリスコ州庁舎にあるオロスコ作の「立ち上がる僧侶イダルゴ」の壁画と、もちろんテキーラの生産工場でした。まず、街の中心のソカロに向かい、すぐそばにある州庁舎に行きました。メキシコ独立の英雄であるイダルゴ神父がここで宗主国スペインに対して独立闘争を開始したのです。壁画を探しながら中央階段を昇っていくと突然眼前にイダルゴ神父が現れました。階段を覆うように天井まで描かれた壁画の中で大きな大きなイダルゴ神父が私に手を差し伸べていました。「さあともに戦いましょう」とうながしているような、その真摯な表情には本当に圧倒されました。イダルゴ神父が1810年9月、ここで行ったスペイン打倒のための「ドローレスの叫び」がメキシコの独立への第一歩でした。しかし、彼は1811年7月にチワワでその志半ばにしてスペインに捕らえられ、政庁舎で銃殺刑にされます。そして、首は晒されました。私はしばらく階段に座り込んで、苦難のイダルゴ神父と、多くの血が流されたメキシコ独立の歴史に思いをはせました。
次の日の朝、バスで北西に約50キロ、その名もテキーラ村にあるテキーラ生産工場のホセ・クエルボ(スペイン語でカラスの意味)社に向かいました。途中は行けども行けどもアガベ(竜舌蘭、テキーラの原料)の畑。アガベはアロエの葉を幅4倍、長さ4倍くらい大きくしたような肉厚の葉が地中から直接、放射線状に出ていると想像してください。全体の大きさは直径約1メートルから1.5メートルくらいです。植えられてからだいたい、6年から8年で収穫され、葉と根を特別の鎌で切り取り、茎を大きなボールのようにします。私もアガベ畑で切り取りを体験させてもらいました。本当によく切れる鎌で、ちょうどホタテ貝の貝殻のような形なのですが、たいした力をいれなくてもスパスパと切れてしまい5人のツアー客だけで不十分ではありますが、ひとつのボールができました。畑から工場に着くと玄関には5、6メートルはあるかと思われる、大きな恐竜のようなカラスの彫刻があり、本物のカラスが2羽、鳥かごに入って迎えてくれました。この会社の創業者がホセ・クエルボさんなのですが、よほどカラスを愛していたのでしょうね、その巨大さにはちょっとびっくりしてしまいました。
この工場は1795年に創業した、世界でも売り上げナンバーワンの会社なのですが、その長い200年あまりに及ぶ歴史のビデオを見せてもらったあと、さっそく工場内を見学させてもらいました。一歩中に入ると大きなボールになったアガベがたくさんころがっています。このボールはパイナップルによく似ているのでピーニャ(スペイン語でパイナップルの意味)と呼ばれます。これをいくつかに区切られた部屋のようなところで蒸します。するととても甘いにおいがしてきます。この段階で絞って飲むとアガベジュースが楽しめます。そして、ピーニャを1週間ほど置いたのち絞り、この絞り汁を発酵させて、蒸留し、テキーラの出来上がりです。工場では蒸しあげられたピーニャがコーヒー色をして次から次へと小さな出口からごろんごろんと出てきます。周囲には甘いにおいが充満しています。
できたてのテキーラが試飲できるというので、もちろん飲んでみましたが、塩もリモンもない中でキュッといくとさすが、ちょっと強すぎてくらっときてしまいました。それでも同じツアーで一緒になったマリアはテキーラが大好きだそうで、何度も試飲して、お昼を食べに入ったレストランでも、また何杯もマルガリータを頼み、私にも勧めてくれます。マルガリータはホワイトキャラソー(オレンジ風味のリキュール)やレモン、ライムジュースとテキーラを混ぜたものですが、その名前のかわいらしさとあいまってとても人気のあるカクテルでとってもおいしいのです。マリアはとにかくよく飲み、よく食べ、よくしゃべり、その勢いで、お勘定も全部払ってくれました。ラッキー、ラッキー、テッキーラ、自分も相手も幸せにしてしまうテキーラだーい好きです。