とびっきりくさい靴を履いて歩こう

昨年の12月14日、ブッシュ大統領(当時)がイラクを訪問、マリキ首相と一緒に記者会見しているときだった。ムンタザル・ザイディという記者が、靴をブッシュ大統領に投げつけたのである。「イラク人からの別れのキスだ。イヌめ」と叫んで最初の靴を投げ、続いて「これは夫を失った女性や孤児、イラクで命を失ったすべての人たちのためだ」と片方の靴も投げつけた。TVで見ていると、靴は見事ブッシュ大統領の顔をめがけて、真っ直ぐ飛んでいった。ブッシュ大統領も、見事に見切って最小限の動きで靴をかわしている。これが、顔に命中して流血でもしようものなら、ザイディ氏はそのまま射殺されたかもしれないが、すべてが、絶妙のタイミングだった。すでに、アメリカの選挙では、国民はオバマを選び、長かったブッシュ政権に別れを告げていた。

さて、この事件の反応はというと、一部報道では、「ジャーナリストとしては、はずかしむべき行為だ」ともっともらしいコメントを出すイラク人のインタビューが流れていたが、9割以上が、「よくやった!」という反応だったと思う。イラクでは、アメリカが始めた戦争で、10万人以上の一般市民が殺され、親を失った子どもたちは590万人にも達するという。

2003年、アメリカの空爆で足を汚したムスタファ君当時8歳の男の子がいた。今では14歳になっている。どう思う?ときいてみた。
「彼がやったことは、ブッシュが私のおじさんを殺し、私を傷つけ多くのイラクの子どもたちを殺したことへの復讐になりました。僕には、何も出来ないから、彼がしてくれたことに感謝します。ただ、あまりにも世界中で多くの人を殺してきたアメリカの大統領です。靴を投げられただけじゃ、償えないですけど。ホワイトハウスを去る前にこのような事件が起こり、世界がよくなればいいなと思います。」

この復讐という言葉で思い出した話があった。911で息子を失った、セクザーさんがイラク攻撃をするという話を聞いて、「爆弾に自分の息子の名前を書いてほしい」とお願いするのだ。国防省は、「ジェイソン・セクザーさん、私たちはあなたを忘れない」と書いた爆弾をイラクに落としたという。その話を聞いて、お父さんは、「うれしかったです。復讐になりました」とインタビューに答えている。しかし、その後、ブッシュ大統領自身も、イラクは911とは何の関係もなかったことを認めた。2003年2月、国連でイラクが911と関係があるという証拠を説明したパウエル国務長官(当時)にいたっては、うその情報に操作されてしまった自分を恥じ、「一生の不覚」とまで言っているのだ。このおとうさんは、それでも、「自分のしたことを過ちだとは思わない」と開き直り、「アメリカはテロとの戦いを続けるべきだ」といい続けるのである。第一相手が違うのだから、復讐になっていない。

たまらないのは、イラクに落とされた爆弾で怪我をした人々。当然、アメリカに復讐を思う。「テロとの戦い」とは、まさに、このような茶番で、2001年から続けている。ムスタファ君は、未だに足がうまく動かない。ムスタファ君の気持ちを代弁するジャーナリズムはあったのか? 時には、靴を投げるというのもありだと思う。とびっきりくっさい靴がいい。

2009年1月、アメリカはオバマ新大統領が就任。ブッシュ大統領はホワイトハウスを後にすると、駆けつけた市民から「ヘイ、ヘイ、ヘイ、グッドバイ」と唱和する声が、空へ向かって響き渡った。スポーツで勝利チームのファンが敗者に浴びせかけるからかいの歌だという。思えば、ブッシュ大統領は、8年前の就任式のパレードで卵を投げつけられたのが始まりだった。さびしくホワイトハウスをさり新しい時代がやってきた。

3月20日、イラク戦争からまもなく6年目を迎える。私は3月13日には日本を出発し、イラクの子どもたちの成長を振り返りながら、現場からイラク戦争を考え直そうと思います。ブログでレポートしていきます。http://kuroyon.exblog.jp/ よろしく。