6月9日、玉川大学講堂で行われた玉川大学芸術学部とニュー・ジュリアード・アンサンブルの「交歓コンサート」が多くの学生、一般客に恵まれ、無事終了した。ニュー・ジュリアード・アンサンブルは、その名の通り、ジュリアード音楽院の学生によるアンサンブルで、ジョエル・サックスの指導のもと、アンサンブル・モデルンなどをモデルとして選抜学生による現代音楽アンサンブル。今回はサックスを含む15人ほどが来日し、その演奏を披露した。
交歓コンサートは、ニュー・ジュリアード・アンサンブルの初来日(6月4日、サントリーホール)に合わせ、玉川大学芸術学部とのコラボレーションによるワークショップとコンサートとして行われた。プログラムは以下の通り。
●ワークショップ:土居克行《For S》室内オーケストラのための一つの素描(玉川大学委嘱・世界初演)、河野亮介《5つの楽器のために》(玉川大学4年生、初演)、テリー・ライリー《In C》
●コンサート:ヘンリー・カウエル《オスティナート・ピアニッシモ》、エリオット・シャープの《ポインツ・アンド・フィールズ》、土居克行《For S》、河野亮介《5つの楽器のために》、テリー・ライリーの《In C》
玉川大学芸術学部の委嘱による土居克行元教授の《For S》は、玉川とジュリアードの合同演奏で行われた。ワークショップで初顔合わせ、初音合わせだったが、演奏は特に問題はない。ここでは作曲者が曲の構造(音名象徴や特徴的な部分など)を丁寧に解説しながら、部分的に永曽重光の指揮で実際に音を出し、本番に向けて演奏を仕上げていく。つづく河野作品はジュリアードのみの演奏で、作曲者の作曲上の微調整に基づいて音楽的な変化をサックスが解説していく。最後のライリー《In C》は事前に合わせることができない玉川とニュー・ジュリアードの演奏面を考慮し、玉川から提案した作品。大オーケストラ並のスケールの演奏で、サックスの音楽的な解説を交えながら、玉川、ジュリアードの学生は戸惑いながらも、作品が求めている意図を実際の鳴り響きから理解しようとする姿が見受けられた。こうしたワークショップの音楽作りがコンサートでプラスに作用したことは言うまでもない。
コンサートの最初を飾るカウエル《オスティナート・ピアニッシモ》は、サックスがカウエルの専門家であることから玉川からジュリアードへお贈り物としてプログラミングされた。ストリング・ピアノ、茶わん、さまざまな打楽器の繊細な音色が異国情緒ある香りを運ぶ。つづいてニュー・ジュリアードによるエリオット・シャープの《ポインツ・アンド・フィールズ》。世界初演から数日の再演。点が領域を作り、線をなしたりしてさまざまに変化を繰り返し、最後に一つに収束していく。前半の最後が世界初演となった土居作品、《For S》。Sとはスチューデントの頭文字で、作曲者らしい厳しい構造美を見せながら、しかもメロディアスな分かりやすさも備えている。音がリズムに織りなされながら、無駄なく空間と時間に大きな起伏を作りだしていた。特にトランペットの扱いが秀逸だった。
後半の河野作品は曲名通り、フルート、オーボエ、ヴァイオリン、チェロ、コントラバスの5つの楽器のための作品。無調による音程操作に基づいている。全体のバランス感、音を選ぶ説得力、持続などに課題はあるが、ニュー・ジュリアードの細やかな表情が、作品に豊かな彩りを添えていた。そして最後の《In C》は、全曲を通して演奏するのははじめてだったこともあるが、当初の予定を越えて、約1時間のリアリゼーションとなった。演奏しながら、音楽する楽しみさ発見するように、音のパターンが複雑な音のネットワークを作りながら通り過ぎていく。最後はニュー・ジュリアードの弦の学生だけになり、何人かがなかなか曲を終わらせない。それは確信犯的で、やりすぎだった。表現者としての目立ちたがり屋の暴走は、大人顔負けの演奏をするかれらがやはり学生であることを改めて思い起こさせた。