間村俊一さんによる堀江敏幸さんの『正弦曲線』(中央公論社)の装幀がいい。12ミリくらいの薄い本で淡いクリーム色の函付き、函と表紙には恩地孝四郎の「ライチー・一枝」から輪郭を得て箔押しされており、函の底にもタイトルが記されてある。表紙はがんだれ、溝に筋つけされており、紙が柔らかいので片手で持ってもよくしなり、いわゆる「五点支え法」(*)でも読むことができる。本文天は新潮文庫のように不揃いで、本文の組は地の余白が大きくとられてゆったりしている。見返しは黒。堀江さんはサインするとき、銀色のペンでここに書くのだろうか。
月刊誌「ラジオ深夜便」の関連で『母を語る』(NHKサービスセンター刊)というムック誌を担当した。軽くて開きやすくて読みやすいかたちにするために、デザイナーの丹羽朋子さんと大日本印刷と編集部で装幀についての検討を重ねた。横になって読むのにもさわりなく、鞄に入れて持ち歩くにも邪魔にならず......「ラジオ深夜便」の読者の声から具体的な読み手の状況をさまざま知らされていたので、目指すところははっきりしていた。結果、210mm×138mmで144ページ、PUR糊であじろ並製、表紙は柔らかく、本文紙はややグレイ、本文は小塚明朝14.5Qでゆったり組んだ。表紙は淡い布地柄で、表1表2表3表4が共柄なので風呂敷で包まれたような印象である。もちろん、「五点支え法」でも読むことができる。
〈ラジオ深夜便〉はNHKの深夜のラジオ番組で、聞く人の眠りを妨げないことを第一義に毎晩放送されている。「母を語る」はそのなかで、アナウンサーの遠藤ふき子さんが企画交渉聞き手収録編集すべてを担い、1995年から月に一度の放送を続けている長寿コーナーだ。書籍化されるのはこれで3冊目。〈ラジオ深夜便〉は、一人暮らしで、眠りにつくまで、あるいは早くに目覚めて日が昇るまで聞いている人が多くいる。また雑誌の編集部には、本屋に行くにはバスを乗り継いでいかねばならない人からの便りもある。そうした状況を想像はできていても、一人一人の文字を読むほどに「想像」の甘さと強さを感じるばかりだ。今年もこれから寒くなる。遠藤さんの声を思い出しながら、夕暮れどきに木製の机の上から『母を語る』をひき寄せてページをめくったり、ちょっとしたおしゃべりの話題になったらと願っている。
*「五点支え法」 本を片手で持ちながらめくる様子で、xixiang(越膳夕香)のブックカバーにbookbar4(わたし)が指の位置を刺繍して本の"柔軟性測定実験"をしたときに述べたもの。