10月17日、朝の2時30分に携帯電話がなった。一階に電話を置いていたので、とることができず、留守番電話にメッセージが入っていた。イラクのイブヒムからだ。
「サブリーンが亡くなりました」
サブリーンは、2005年に、横紋筋肉腫というガンにかかった。きちんと治療すれば、70%から90%は治るそうである。しかし、サブリーンは、すでに病院に来たときは手遅れになっていた。イブラヒムが、2005年当時、「汚い服を着ている子がいて病院に来るお金もないんだ。支援してあげてほしい」という。すでに、片目を摘出していた。数ヶ月たって、イブラヒムがイラクのこどもたちに絵を描かせたといって何枚かの絵を持ってきてくれた。「なんだこれは!」と言ってしまいたくなるほど爆発している絵がその中にはあった。それが、片目のサブリーンが描いた絵だった。
4年経ち11歳の少女は、15歳になっていた。イブラヒムに頼んで絵をたくさん描いてもらった。猫を飼っていると聞いたら、猫の絵を描いてもらった。ワールドカップではサッカーの絵を描いてもらった。
「マキは、いつも絵を描けっていう」彼女はイブラヒムにこぼしていた。
そんな絵には、「この絵は、マキさんへのプレゼントです。サブリーン」といつも書き込まれていた。
彼女はいつも汚い服を着ていると、イブラヒムが言うものだから、クウェートで何度か洋服を買ってやって、イブラヒムに届けさせたことがあった。最初は、ど派手なピンクのシャツとかだったがおとなっぽくなってくると、銀糸で太陽がぎらぎらしている刺繍の入った黒いアバーヤをあげた。彼女は、つらい手術のたびに、お守りのようにその服を着ていたという。
「みんなが守ってくれているような気がするの」
今年、5月、バスラをたずねることができた。わずか30分くらいであったが、サブリーンがわざわざ太陽の服をきて病院まで来てくれた。この30分は、神がくれた贈り物だった。しかし、その後様態が悪化して残念な結果になってしまった。僕は丁度仕事でバスラに薬を届けなければいけなかったのだが、イブラヒムは、「今、バスラは危険だ。絶対に来るな」という。悲しいかな、お見舞いにもいけなかった。
今、イラクのアルビルというところにいるのだが、イブラヒムがサブリーンの遺品を届けてくれた。「私のことを覚えていてほしいから、死んだらマキにわたして」といったそうだ。イブラヒムがビニール袋から取り出したのは、彼女がつけていた時計、着ていたドレス、頭に巻いていたスカーフ、そしてサングラス! ぬけがらそのものだった。僕はとまどった。こんなのは、普通家族が大切にもっておくのではないのかとも思ったのだが、イブラヒムは「彼女は、孤独だったんだよ。家では、虐待されてたんだ。」というのだ。
うまれてきてつらいことがたくさんあったのだろう。でも天国では、平和に暮らしてほしい。