切りそこなった
檸檬の薄切りみたいな
半透明の月が浮かんでいる
霜月のそらに
きみを思う
あのころ
ポーズとしてさえ
拳ふりあげることのできなかった
きみを思う
あのころって
そう
へその見えそうなラッパズボンに
男も女も
長い髪たらして歩いていた
あのころのことだよ
おまけに男は 黒ぐろと
髭まで生やしていたな
なつかしくはないけれど
思い出すのさ
霜月のそらから
陽が温暖に降りそそぐと
きみのことを
それは地球を裏返した
半焼けの
あたしのことでもあるから
かな、やっぱり
櫛の歯がこぼれて
ひとり ふたり
またひとり
雲のなかに旅だっていく
でも、あたしが準備するのは
泪でこねた泥濘なんかじゃない
ほろっと乾いた古タオル
ぬくぬくさらり
包まれて
風が花ばな揺っている
断然、ノスタルジア虫ぼし済みの
ことばの経帷子だ
白くなった
きみの髭も
そこに織り込んでくれない?