ゆきの記憶

こやみなく降る
ゆきが
人のけはいを消し
生き物のけはいを消し
ビル群にはさまれた
道のむこうは
地も空もない

濃淡を
ゆらゆらと照らしながら
奥まりに降りつもる
記憶の
ゆきを かき
埋め込まれることにあらがって
粉のような
ゆきを はねる

理不尽な
いま
から
脱出しようと
汗だくになって
きみのシャベルがすくうのは

太郎を眠らせたゆきではなく
次郎を眠らせたゆきでもなく

幾千の
ときのかけらと
ちりぢりになる命の軌跡

いまはまだ
不器用な手つきで
乾いたことばの薪を継ぎ
響きをもやし
おびただしい
サカジャウェアたちを
サラ・バートマンを
チリ・マシホを
エミリア・ウングワレーとそのなかまたちを
記憶
する 
ゆりかごを 揺らす