まっている
あれからずっと
まっているんだ
糸くずになった記憶の家に
老いた蜘蛛のように棲みつく
地球の裏の
きみに出した手紙
くるはずのない返信が気になり
きょうも
がくがくと緯度線をくだり
とびかう花粉に
四季の踊り場でくしゃみして
指で経線ブラインドをこじあける
まっている
というのは
なにをまっているのか
わからなくなる
あらかじめ目的地の失われた
のろい汽車の旅のようなもので
くぼみもないのに
容赦なく風は曲がる
終着駅はあるのだろうか
熱砂と火薬のにおいで傷んだきみに
深い眠りはあるのだろうか
糸くずは藍色の空にはりついて
深海魚のように明滅し
眠りのなかであらそう声が
風をさえぎる洞の奥で
くぐもった音をたてる
だんだん縮んでいく幼いきみを
抱き寄せればいいのか
と語彙が腕立て伏せするうちに
奇妙な光放つ空席を
四月の風がさらっていくんだ
もう一杯お茶をのんだら
わたしもまた
ゆっくりと谷の底までおりていくから