ルサカの闇

飛行機から降りて2時間まった 空港内のコンクリ壁に囲まれて
荷物のうえに腰をおろしていた あたりに夕闇の気配がしのびより
そこここの売り場やカウンターに 橙色のライトが点いたが 
迎えの車はこない そしていきなり 男たちがあらわれた 
たくましく 鋭い目をした 4人の黒い男たち

強く記憶に残っているのは 車の後部座席に 押し込められるように
座った窓の 外の闇─闇─闇 ルサカの闇だ 車はいちめん
墨色のなかをゆっくり走る 目をこらすと 地平線のところどころに 
低い樹影 遠くにぽつぽつと灯りが見える 
ライトは点けない 

唐突に 山二線の なめらかな土の道が 浮かんできた 
未舗装のじゃり道ばかりの 旧植民地北海道の8月 村の盆踊りの帰り道だ
月はなく 隣を歩いている 1歳ちがいの兄の浴衣も見えず
うつむくと 自分の下駄の緒さえ見えない なのに
数歩先の水たまりが 鈍い灰色の鏡面のように ぼんやり浮かんでいる 
この先なにがあるかわからないという 一瞬の不安 それでも 
包まれているという感覚 濃密な一体感 ふしぎな豊穣さ 

やがて車は闇に車体を愛撫されるようにしてホテルに着いた