立場上、よく学会やら勉強会やらに出向くことがあるのですが、その際の服装について少々思うところがあります。教員になれば背広やカッターシャツのみで出てもいいのでしょうが、当方はまだ大学院生ですし、フォーマルすぎる装いにはどこかしら違和感があって、かといってカジュアルすぎる服では学問の場にはあまりそぐいません。そこで、たいていは自分(紳士服屋の息子)の思うフォーマルとカジュアルのあいだくらいの服装をして行くのですが、たまたまそのあたりの格好で後輩たちの前に出ることがありまして、するとこんな反応をされました。
「おおお、執事! それは執事というやつですね!」
えっ、執事? これが? ......確かに、今は英文学の研究もしているので、そう呼ばれることはやぶさかでありませんが......私自身の思う執事のイメージとはかなりかけ離れていたので、その発言は寝耳に水で。
服の組み合わせとしては、ごくごく簡単です。黒・ダーク系のシンプルなジャケットに、高めの襟をもった柄もののカッターシャツ、細身のネクタイに、下はそこそこタイトな同色系のデザインパンツ――と、ここまでだと下手をすればホスト風にも見えなくもないのですが、違うところはさらにベストを合わせているところです。たぶん、このベストが〈執事〉と言われるゆえんなんだと思うのですが、まさか執事と呼ばれるとは思っておらず......。
しかし、今の世の仲(とりわけサブカルチャー文脈)では〈執事〉キャラが女性に大人気であり、「お帰りなさいませ、お嬢さま」と女性客を迎える〈執事喫茶〉なるものもあるとあっては、ホストと執事のイメージは紙一重なのかもしれません。(今年の春は寒く、時折手袋をはめていたのも原因のひとつかも。)
そう考えれば、世の20代後半から30代前半の男性に対して、あえて〈執事風ファッション〉を押していく方向性も考えられます。いわゆるオトメンファッションのひとつとして。オトメンのあり方として〈少女マンガから出てきたような〉というイメージがあるとするなら、今流行っている〈執事〉を取り入れないでどうするか! というふうに煽っていってもよいでしょう。
そう――紳士らしく、執事らしく、カジュアルなジャケットの下にもフォーマルなベストを着るのです!
というような、まことに勝手なファッションを流行させようとする主張を、仲間うちで戯れに試みることがあります。よくあります。勢いで盛り上げて実行してみることさえあります。ついこのあいだも、そのようなことを致しました。
「パン焼き日誌-「今日の早川さん」3巻発売記念、コスプレ早川さん」
私たちは〈本ガール〉というものを流行らせたく思っています。いや、そもそもは本文中にも〈早川ガール〉というように、早川書房のSFを好むような女子を『今日の早川さん』という本好きあるあるマンガにあやかって確立させたかったのですが、その後あれこれ話しあった結果、あまりにも対象層が狭すぎるだろうということで、大きく〈本好き女子〉というものにしてみました。
たとえば、本の表紙やカラーリングに合わせた地味めの服装をして、雰囲気のある書店でグラビアを撮ってみるとか。これは本屋のアイドル、というような方向性かな。または〈森ガール〉の向こうを張って、森にいそうというよりも、薄暗い埃だらけの書庫にいそうな女の子とか。OPACなんかには頼りません、カード検索一筋です、みたいな。あるいはクトゥルフ神話が大好きな〈クトゥル風ファッション〉でもいいですよ。服から触手のようなものがたくさん生えているんです、いあいあ。
それはさておき、新潮クレストブックスによく似合うファッション、ないし岩波文庫にぴったりのコーディネイト、とか考えるだけで楽しいですよね。実際、今回モデルをしてくれた友人を見る限り、とても面白そうでした。ハヤカワSF文庫の〈青背〉を基調として、全身を淡いブルーの系統でまとめて、髪型とメガネをマンガの登場人物に合わせたりなんかして。
どこで本を読むにせよ、読書の際の雰囲気は大事にしたいですし、できればその持っている本や場所に合致した服装をしたいものです。裸の本だけじゃなくて、ブックカヴァーやメガネも含めてアレンジしてしまってもいいかもしれません。そういうものを総合して空間が美しく見えれば素晴らしいですし、そうすれば結果として写真に残すに値するものとなったりなんかしたりして。
世間では電子書籍元年とか言われ、どんどん本が電子化されて形を失っていくのかもしれませんが、その逆をいって、あえて〈書籍のモノ性〉を押し出してみるのもいいのでは、と。(その方向性で行くとiPadもファッションツールのひとつとして、全身をサイバー風にしてみるとかもいいのでは、と。)
せっかく装丁なりブックカヴァーなりがあるひとつのデザインになっているんですから、それに合わせたファッションにしてみたっていいでしょう? 大好きな本に、自分の全身を染めてみるってことで。新しい文学少女の誕生かも。
世の本好き女性の方々、いかがでしょうか。これ、やってみません?
私たちはそんな本ガールのモデルを募集中であります。半分冗談ですが半分本気でもあったりして。というか今回モデルをしてくれた我が悪友が本ガールファッション仲間を欲しているというか私が広告塔を仰せつかわされているというか何と言いますか行きがかり上。私としてはそれから最終的に一冊の写真集なんかができちゃうことをただただ妄想しておる次第でございます。