その海できみはなにを見たの
偶然にも 迂回して立ち寄ることになった ちいさな島
泊まったのは 屋根が藁葺き 壁もポーチの四角い柱も
真っ白に塗られて ちいさな高窓をくった 瀟酒なコテージ
インド洋の真珠 モーリシャスのホテルの
レセプションカウンターには 流行ではないのだ たぶん
男はかくあるべし といった風情で髭をたくわえた
黄色いシャツ姿の男が2人いて 人差し指を
鼻の下にあてがった1人が なにやら
考え込むようにして 相方の作業をじっと見ている
浜辺では コバルトブルーとはこういう色
と主張する海と すばらしく晴れ渡った空に抱かれて
ひろった記憶のなかの砂は 黒い土の砂ではなく
ふぞろいの白いビーズのような 珊瑚や貝殻の細かな砕片
波に洗われ エッジはすべて失われ 手のひらを切ることもなく
しゃらしゃらと ひたすら しゃらしゃらとこぼれ落ちた
Proteze ou baba──そう書かれた 2ルピーの記念切手が
出さずに終わった火炎樹の絵はがきに いまも3枚貼られたままだ
クレオール語の意味も いまならわかる
赤ちゃんを守ろう 結核 百日咳 ジフテリア 破傷風 ポリオ 麻疹
そこできみはなにを見たの ざくざくと金貨の入った鞄のように
天からふってきた旅が観=光でなかったはずはないよね