ギターを鳴らし、唄うというスタイルのミュージシャンに心魅かれている。近くでコンサートがあれば聴きに行きたいと思うのは、三宅伸治、石田長生、そして仲井戸麗市。注意深く情報を追いかけていなければ見落としてしまうような宣伝力だけれど、3人ともとても勤勉に唄う仕事を続けている。ロックというイメージとはむしろ正反対のコツコツと、という仕事振りだ。
この夏に偶然、3人の演奏を聴く夜が続けてあった。「30歳以上は信じるな」なんていうことはもう言われない時代だけれど、そんな合言葉を知っている世代が、年を重ねてもなお子どもみたいにやわらかな心で唄っている。かつて、仲井戸麗市は「大人の意志で子どもを生きてる」と唄ったけれど、「大人になりたくない」と駄々をこねるのではなくて、大人として勤勉に暮らしながらもなお、「昔憎んだ30歳以上」になってしまわない姿には、年を重ねることも悪くないなと励まされる。
仲井戸麗市などは、還暦を迎える年齢だというのに、ますます初々しい。いつまでも、どうしても何かに慣れることができないという姿だ。どうしても慣れることができないものとの摩擦、どうしても手離したくないものへの思い、そこから彼の唄が生まれてきているようにも思う。年をとるたびに平気で慣れていってしまう、平気で手離していってしまうという事が、信用ならない大人(30歳以上)になるという事であるようだ。そういえば3人ともキャリアを重ねているというのに、まだステージに立つことに慣れていないような振る舞い方をする。そんなところも共通した魅力なのだけれど。
8月最後の日曜日、山中湖で行われた野外フェスで、仲井戸麗市は親友忌野清志郎にささげる演奏をした。本人はそんなコメントを一切しなかったけれど、熱心なファンにはみんな、その思いは伝わっていたのだった。
持ち時間の最後に演奏されたのは、ジミ・ヘンドリックスの「Little Wing」。ロックが好きな人には、曲名を言っただけであのサウンドがよみがえる名曲だ。どこまでもどこまでも伸びていくギターのメロディー。「空から降りてきて僕を救ってくれ」というマジカルな歌詞。心をどこか遠くまで連れて行ってくれる、あの曲自体に小さな翼がはえていたのだと今になって思う。仲井戸麗市が手離さないものは、「Little Wing」を聴いて共振する心なのかもしれない。この曲を「いいね」と言い合った親友への共感も含めて......。
大事な友を失ってから2回目の夏。「Little Wing」に重ねて彼がつけた歌詞を聴いていると哀しみは決して消えることがないのだと感じる。いつまでたっても慣れることなんてできない哀しみがはっきりと見える。