村へ帰る

おもいっきり
足裏で土を蹴って
出てきた村には
学校帰りに給食のパンを持っていくと
妹をおぶって流しに立つ
小柄なナカバヤシさんがいて
家の奥の薄くらやみには
いないお母さんの気配と
夜、日雇い仕事からもどってきて
ナカバヤシさんのつくった夕飯を食べる
日焼けしたお父さんの影があって
学校から帰ることのできる
少女たちは
冗談いいながら
うつむきかげんに家に向かう

 ──わたしはアマラ*を知っている

ふりむきもせずに
出てきた村には
目をつりあげて嫌みをいい
少女の自転車のタイヤに釘を刺した
ちんちくりんのイナガワくんもいて
いまもときおり
ささやぶの陰に隠れて
仕返しのチャンスを狙っている
このやろう
と思った少女が教室で 
ひょいと片足だして
机と机のあいだを
乱暴に走りまわる
イナガワくんを転ばせたからだ

 ──わたしはアマラを知っている

春と秋の農繁期には
学校が午前授業になる
ちいさな村には
遊び疲れたゆうぐれどきに
泥のついた野菜を古新聞にくるんで
勝手口にあらわれる
りっちゃんちのおばさんもいて
白い肌に青あざつくり
手ぬぐいで目尻を押さえながら
元看護婦の母に
ちいさな声で
とぎれとぎれに話すのを
息をこらして聞いていたんだ

 ──わたしはアマラを知っているのよ

だから村へ帰る
少女が生まれた村へ帰る
アマラたちの村へ帰る
そろりそろり
いや きょうび
飛んで帰ろうか 
それも
ありかな ありかな


  *チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著『半分のぼった黄色い太陽』の登場人物