ある秋の日に ―― K・S へ

一日のいちばん澄んだ時間に
きみの詩を読む
いまにも泣き出しそうな
曇天の朝がいい
きみの詩にはいつも
全方位から風が吹いて
びゅうびゅう寒いこと寒いこと
だから
きみの詩集をひもとく窓辺は
無風の朝がいい

熱帯雨林や
砂漠が登場しても
期待される暑熱はない
なぜだろう
トロピカルという語が
極地を思わせる白さだ
風は
断片となったモノの内部から
烈しく吹きさらし
星の鱗まで剝がしていく

あらかじめ熱を奪われ
炎のように荒れる
見えない海を見つめるきみは
(そしてわたしは)
やがて なにものかの欠片となって
眼球の表から彷徨い出し
幻視する 
あたうるかぎり
分け
分けられた
粒子 原子 壊れた単位の 
それを
この世のしずく 
しぶき あわ 飛沫 うたかた
などと
口中でころがしてみても
どれもこれも嘘くさく

宙吊りの曇天の下
行と行のすきまに
スタンザとスタンザのあいまに
時空の具体を超え
消音の響きを想起させる
きみの強靭な意思と髑髏のような姿が
それでも
脱ぎ捨てられない懐かしさに
生きることの空へむかって
慟哭の赤い尾を引く